発生研について
所長挨拶

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熊本大学発生医学研究所は、2000年に改組した発生医学研究センターを基盤としており、学内外で「発生研」という呼称が定着しています。本研究所には、遡れば1939 年の体質医学研究所を原点にして、遺伝医学遺伝発生医学、そして発生医学につながる70年以上の歴史があります。そして数々の研究の成果はもとより、多くの優れた研究者を国内外に輩出してきた、若手研究者にとって登竜門的存在の研究所です。

 

私達の身体を構成する多種類の細胞がどのように増殖し分化して、組織や器官を形作っていくのか。この仕組みを明らかにし、病気の解明や治療、組織・器官の再構築へと進めるのが「発生医学」です。再生医療は、発生のメカニズムを用いて、必要な細胞や臓器を作製することになります。発生学の視点をもとにヒトの健康を増進し、また将来を担う次世代を育成することで、学問と社会に貢献するのが発生研の役割です。

 

本研究所は3つの部門から構成されており、「発生制御部門」では、発生機構および疾患発症の防御機構を分子・細胞の観点から解明することを、「幹細胞部門」では、ES細胞・iPS細胞・組織幹細胞の制御機構から再生医学を展開することを、「器官構築部門」では、個体の器官・臓器発生を制御する基本原理を解明することを目的としています。さらに、2012年に附属「臓器再建研究センター」を設置し、将来の医療のために臓器を創る基礎研究と臨床への橋渡しを目指しています。

 

また2010年には文部科学省「発生医学の共同研究拠点」に認定され、研究者コミュニティーと社会のニーズを踏まえた共同研究を広く支援しています。特に充実した共通機器と熟練の技術支援者からなるコアファシリティ「リエゾンラボ研究推進施設」は、研究所全体が一つのラボとして機能するという類をみない支援システムであり、近年の発生研躍進の基盤となるとともに、国内外の共同研究支援にも大きく貢献しています。

 

さらに、発生研が中心的に推進してきた21世紀COEプログラム「細胞系譜制御研究教育ユニットの構築」(2002-2006年)、グローバルCOEプログラム「細胞系譜制御研究の国際的人材育成ユニット」(2007-2011年)は、博士課程教育リーディングプログラム「グローカルな健康生命科学パイオニア養成プログラム HIGO」(2012年—)に結実し、理系の枠を超えた部局間連携で、深い専門性と幅広い視野をもった人材の育成を推進しています。

 

発生学的視点から生命科学と医学の融合を目指す発生医学研究所は、独自の立ち位置を築いており、これからも熊本から世界に向けてサイエンスを発信していきます。そのためには独創的な発想をもとに、他に真似のできない成果を挙げていく必要があります。旧制五高(熊本大学の前身)で学んだ物理学者寺田寅彦は、「科学者になるにはあたまがよくなくてはいけない。しかし一方であたまが悪くなくてはいけない」と書き残しています。経験を積み知識が増えるにつれて予想や絞り込みがうまくなるものです。しかしそれでも自分の想像を超える可能性を常に想定して、愚直にそれを試すことが、誰も見たことのない世界への入り口です。熊本に立地し流行に左右されないこともそれを後押しします。そして発生研に集う不均一な個人・研究室が発火しあって、必然と偶然によって、全く新しいサイエンスが生み出されることを期待しています。

 

そしてもう一つ、自分の出世や研究者としての生存のためにサイエンスを手段として使わないでいただきたい。私たちは基本的に自分の興味に基づいて研究をしますが、最終的には人類の知の発展のために貢献しています。サイエンスは目的であって手段ではない。常に素晴らしい結果がでなくてもよいです。正直な結果をもとに誠実にサイエンスを進めてください。あなたが一生かけて解きたいことは何ですか?それに向かって愚直にまっすぐに進んでください。そして何よりも、自分ではなくサイエンスを愛してください。寺田寅彦は言っています。「科学者になるには自然を恋人としなければならない。自然はやはりその恋人にのみ真心を打ち明けるものである。」

 

2016年4月

 

 

熊本大学発生医学研究所
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