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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2013年 12月 18日
タイトル
合成基材ナノファイバーによる Rho ファミリー G タンパク質 Rac1 活性化を介した ES/iPS 細胞の高効率肝分化誘導

A synthetic nanofibrillar matrix promotes in vitro hepatic differentiation of embryonic stem cells and induced pluripotent stem cells

J Cell Sci  2013 126(23): 5391-5399

Taiji Yamazoe, Nobuaki Shiraki, Masashi Toyoda, Nobutaka Kiyokawa, Hajime Okita, Yoshitaka Miyagawa, Hidenori Akutsu, Akihiro Umezawa, Yutaka Sasaki, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume

 

 胚性幹細胞( embryonic stem cell, ES 細胞)や人工多能性幹細胞( induced pluripotent stem cell, iPS 細胞)は多分化能、自己複製能に特徴される細胞群であり、再生医療におけるドナー不足を解決できる魅力的な細胞ソースである。多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では、これまでマウス胎仔中腎由来細胞株である M15 細胞と共培養した場合の細胞間相互作用による分化誘導の促進作用( Shiraki et al ., Stem Cells, 2008; Shiraki et al ., Genes Cells, 2008; Umeda et al ., Stem Cell Res, 2013 )や、細胞外マトリックス成分であるラミニンを強制発現した擬似基底膜を用いた細胞 – マトリックスの相互作用による分化誘導の促進作用( Higuchiet al ., J Cell Sci, 2010; Shiraki et al ., PLoS ONE , 2011 ) を明らかにしてきた 。

  今回、同分野の山添太士研究員らは、マウスおよびヒトにおける ES 細胞および iPS 細胞の肝細胞分化誘導を効率化するための最適な細胞足場環境を探索し、その分化効率化を促す分子メカニズムを同定することを目的として、完全合成基材であるナノファイバーに注目した。この培養基材は未分化の ES 細胞の増殖を促進し、初代培養細胞の機能維持に優れていると報告されている。そこで再生医療および研究利用のために、未同定物質を含むウシ胎仔血清を用いない合成培地で分化誘導を確立し、一般的に用いられている細胞外マトリックス成分であるゼラチン・コラーゲンタイプ I ・ファイブロネクチン・マトリゲルと比較したところ、内胚葉分化誘導効率、肝細胞分化マーカーの上昇、肝機能が有意に高いことがわかった。

  また、このナノファイバーにおける分化誘導効率化に寄与する分子機構の同定を行うために、 ES 細胞がドーム状になるという細胞形態変化がナノファイバー上で見られることに注目し、細胞骨格を制御する Rho ファミリーの Rac1 活性を測定したところ未分化状態ならびに分化途中においても活性化していた。

Rac1 の活性化阻害剤である NSC23766 を用い、分化途中の様々なタイミングで Rac1 活性阻害を行ったところ、分化初期においては内胚葉分化マーカー ( Forkhead box A2 Foxa2 ) が、後期においては肝細胞分化マーカー Alphafetoprotein Afp) や Albumin Alb1 ) が低下した。

 このことから、ナノファイバーの肝分化誘導効果は Rac1 の活性化が寄与しており、 Rac1 の活性化は分化過程のいずれの時期においても重要であることが示唆された。この研究成果は Journal of Cell Science 誌 2013 年 12 月号に掲載された。

 

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図 各ステージにおける NSC23766 添加の有無による培養 18 日目での分化への影響評価

 

分化非阻害群のマーカー遺伝子発現量を 100 として、平均± s.e.m. (n=3) を示している.統計学的検定には One-way ANOVA with the post-hoc Dunnett’s test を用い, *P<0.05 もしくは **P<0.01 を示した。