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分  野腎臓発生分野
掲載日2010年 5月 20日
タイトル
キネシン遺伝子 Kif26b は胎生期の腎臓形成に必須である

Yukako Uchiyama*, Masaji Sakaguchi*, Takeshi Terabayashi, Toshiaki Inenaga, Shuji Inoue, Chiyoko Kobayashi, Naoko Oshima, Hiroshi Kiyonari, Naomi Nakagata, Yuya Sato, Kiyotoshi Sekiguchi, Hiroaki Miki, Eiichi Araki, Sayoko Fujimura, Satomi S. Tanaka, and Ryuichi Nishinakamura (2010) Kif26b, a kinesin family gene, regulates adhesion of the embryonic kidney mesenchyme. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, published on line: May 3, 2010 doi:10.1073/pnas.0913748107 (* equal contribution )

  腎臓発生分野(西中村隆一教授)では、転写因子 Sall1 が腎臓発生に必須であることを報告してきた( Nishinakamura et al. Development 2001, Osafune et al. Development 2006 )。しかし Sall1 がどんな標的遺伝子を制御して腎臓を形成するのかは不明のままであった。今回、同分野の内山裕佳子博士( COE リサーチアソシエイト)と阪口雅司(大学院博士課程; COE ジュニアリサーチアソシエイト)らは、キネシン Kif26b が Sall1 の直接の標的であり、かつ腎臓発生に必須であることを明らかにした。 Kif26b は、同分野の高里実博士(現所属: The University of Queensland )が、腎臓内の Sall1 発現細胞を用いたマイクロアレイによって見いだした遺伝子の一つである (Takasato et al. Mech. Dev. 2004) 。腎臓は、後腎間葉と尿管芽との相互作用によって形成されるが、 Sall1 及び Kif26b は間葉に発現している。そして Kif26b 欠失マウスは、腎臓を欠損して生直後に死亡し(図 1 )、 Sall1 欠失マウス同様、尿管芽が間葉に侵入していなかった。これは間葉から分泌され尿管芽を引き寄せる液性因子 GDNF の発現が維持されないためである。さらに、尿管芽に接する正常の間葉細胞は、凝集して側方に N- カドヘリンを、 基底側(尿管芽側)にインテグリンα8を発現するが、 Kif26b 欠失マウスではこの過程が障害されていた。一方、培養細胞で Kif26b を強制発現すると N- カドヘリン依存的に劇的に凝集が亢進した。さらに Kif26b の結合因子を探索することによって、この凝集が Kif26b と非筋型ミオシン重鎖 IIB との結合に依存することを明らかにした。これらの結果から、 Kif26b はミオシンを介して後腎間葉細胞の接着を制御し、インテグリンα 8 さらには GDNF の発現を維持していることが示唆された(図 2 )。キネシンは微小管に結合し、 45 種類以上存在するが、単一のキネシンの欠失によって臓器が丸ごと欠損するという報告は今回が初めてである。本研究は、遺伝子断片の単離から7年を費やした労作であり、 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 誌電子版( 2010 年 5 月)に先行掲載された。

 

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図1  Kif26b ノックアウトマウスにおける腎臓欠損

生直後の腎臓。 A , 野生型; B, ノックアウト。

ad, 副腎 ; k, 腎臓 ; te, 精巣 ; bl, 膀胱 . * , 盲端になっている尿管

 

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図2 腎臓発生における Kif26b の機能

微小管結合蛋白 Kif26b は、ミオシン (NMHCII) を介して間葉細胞( mesenchyme )の接着を制御する(側方の N- カドヘリン,基底側のインテグリンα 8 )。これが2次的に GDNF を維持して、尿管芽 (ureteric bud) を間葉に引き寄せる。