Sayoko Fujimura, Qing Jiang, Chiyoko Kobayashi, Ryuichi Nishinakamura. (2010) Notch2 activation in the embryonic kidney depletes nephron progenitors. J. Am. Soc. Nephrol. 21: 803-810.
腎臓は機能単位ネフロンの集合体である。ネフロンの形成において、前駆細胞である間葉から上皮の転換には Wnt4 が、引き続く近位ネフロンの発生には Notch2 が必須である。今回、腎臓発生分野(西中村隆一教授)の藤村幸代子(技術補佐員:現発生研研究支援員)らは、活性化型 Notch2 を Six2 陽性のネフロン前駆細胞で発現するマウスを作製し、 Notch2 の活性化は前駆細胞から近位ネフロンへの運命転換を引き起こさず、却って前駆細胞を枯渇させることを示した(図1)。これは、前駆細胞を維持する転写因子 Six2 の低下に伴う Wnt4 の異所的発現により、早熟な上皮化( epithelial conversion )が引き起こされるためであった。よって Notch2 と Wnt4 の間にはポジティブフィードバックループが存在し、 Notch2 は前駆細胞の未分化維持プログラムを抑制することでネフロンの分化状態を安定化しているのであり、細胞運命を直接決定していないことが示唆された(図2)。この研究成果は腎臓学の top journal である Journal of American Society of Nephrology 誌5月号に掲載され、表紙及び巻頭でも紹介された(図3)。
図1 ネフロン前駆細胞で Notch2 を活性化すると腎臓の顕著な低形成を引き起こす。出生直後の腎臓。 a 副腎 , b 膀胱、 k 腎臓、 t 精巣
図2 Notch2 は前駆細胞維持プログラムを抑制することで、ネフロンの分化状態を安定化している。 Notch2 は Hesr 遺伝子を介して Six2 を抑制することで、 Notch2-Wnt4 のポジティブフィードバックを形成する。
図3 Journal of American Society of Nephrology 誌の表紙。胎生 14.5 日の腎臓。