【日時】 8月27日(月)16:00~17:00
【会場】 発生医学研究所 1階カンファレンス室
【要旨】
脳の機能単位であるカラム構造は様々な動物の脳において見られるが、発生の過程においてカラム構造が形成されるメカニズムはほとんど分かっていない。ハエの脳の視覚中枢はカラム構造および層構造といった哺乳類の脳においても見られる構造的な特徴を有しているだけでなく、遙かに少数の神経細胞から成り、強力な遺伝学的手法を用いることができるため、カラム形成を研究する上で優れたモデル系である。
カラム形成の分子機構を理解するため、我々はカラムを可視化するマーカーを探索し、細胞接着分子であるNカドヘリンがカラムの一部に限局し、ドーナツ状の局在パターンを示すこと、またカラムを構成する多数の神経細胞中でもR7, R8, Mi1の軸索終末がカラム内において同心円状の領域(R7が中心、R8がR7の外側、Mi1がR8の外側)に分布することを見出した。このような同心円状の分布はSteinbergによるDifferential Adhesion Hypothesisを想起させる。つまり、3種類の細胞の接着力の差によってそれぞれの細胞の位置関係が決まっているのかも知れない。実際、NカドヘリンのRNAiおよび過剰発現によって、これら3種の細胞の相対的な接着力の差がカラムの基本構造を決定していることを明らかにした。
カラム構造は幼虫期には1層の平面上に配置されているが、蛹期にはこれが3層に分かれ、立体的なカラム構造が成熟する。これら3つの層においてそれぞれDifferential Adhesionによる制御が働いていると考えられる。しかし興味深いことに、上部の層特異的にNカドヘリンをノックダウンしたところ、下部の層においてもカラムの配置が見られた。このことから、3つの層は独立しているわけではなく、層間の相互作用がカラムの3次元構造形成に関与していることが明らかとなった。ハエの分子遺伝学だけでなく、数理モデリング、ディープラーニングによる画像解析を組み合わせた融合研究の可能性についても議論する。
【連絡先】熊本大学 発生医学研究所 染色体制御分野 石黒啓一郎(6606)