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[発生研セミナー] 3月2日16:00~筑波大 林 良樹 先生

2017.02.27 ●セミナー

第303回 発生研セミナー

 

【日時】3月 2日(木)16:00~17:00
【会場】発生医学研究所 1階カンファレンス室

 

メタボロミクスからみえてきた

始原生殖細胞の代謝的性質とその役割

 

筑波大学 生命領域学際研究センター 助教

林 良樹 博士

 

多くの動物種において生殖系列の前駆細胞(始原生殖細胞:以下PGC)は、抑制的なクロマチン状態、低い転写活性、そして潜在的な分化多能性など、体細胞にはみられない様々な特徴を持つことが知られている。PGCのもつ発生学的・細胞学的特徴が明らかになりつつある一方で、PGCがどのような細胞内代謝を持つのかは全く不明である。
私はショウジョウバエのPGCをモデルとして用い、PGCの細胞内代謝状態およびその役割の解明を試みてきた。PGCに対する単一細胞種メタボロミクスを試みた結果、PGCと体細胞ではメチオニン代謝が大きく異なることが明らかとなった。すなわちPGCは体細胞に比べてMet含有量が顕著に高く、反対にSAM含有量が著しく低いことが明らかとなった。そこでMetをSAMに変換する酵素(Sam-S)の発現を調べた。その結果、Sam-Sの発現はPGCのみならず、配偶子形成過程の生殖系列においても低いことが明らかとなった。このことは、生殖系列ではその発生過程を通じて、SAMの合成が抑制されていることを強く示唆している。
次に生殖系列におけるSAMの合成抑制が果たす役割を明らかにするために、生殖系列においてSam-Sの強制発現を行いその影響を観察した。その結果、そのような生殖系列ではレトロトランスポゾンの発現が亢進し、アポトーシスが誘導されることが明らかとなった。このことは生殖系列におけるSAMの合成抑制は、生殖系列におけるレトロトランスポゾンの不活性化に寄与することを強く示唆している。現在、生殖系列におけるSAMの枯渇がエピゲノム状態に影響を与えることで、生殖系列におけるレトロトランスポゾンの発現を抑制するという仮説のもとに解析を進めている。本セミナーでは上記研究における発生医学研究所との共同研究の概要を紹介するとともに、PGCにおいて特徴的な代謝状態を示すもう一つの代謝経路である解糖系の機能解析もあわせて紹介したい。

 

本研究は、H28年度「発生医学の共同研究拠点」の採択課題です。

 

【連絡先】発生医学研究所 細胞医学分野 日野 信次朗(内線6801)