日時:平成28年 12月26日(月)11:00~12:00
場所:発生医学研究所 1階カンファレンスルーム
ダイオキシン受容体として知られる Aryl hydrocarbon receptor (AhR) は,以前から外来異物を認識する受容体として認知されてきた.しかし近年,生体内に AhR 受容体に対する内因性のリガンドが存在することが相次いで報告された.その1つが 6-formylindolo[3,2-b]carbazole (FICZ) である.FICZ は,トリプトファン代謝物であり,UV 照射により生体内で生成される.しかしながら,その生理的役割については,ほとんど明らかになっていない.そこで我々は,FICZ の生体内における役割を明らかにすることを目的とした.はじめに,microarray を用いた網羅的解析を行った結果,FICZ 処理群のマウスでは,皮膚再構築に関わる遺伝子群の発現が上昇していることが示された.そこで,創傷治癒モデルマウスを用いて検討した結果,FICZ 処理群のマウスでは有意に創閉鎖が促進していることが明らかになった.また,難治性潰瘍モデルマウスでも FICZ は顕著に創傷治癒を促進していた.次に,FICZ の作用機序を検討した結果,FICZ が MEK/ERK 経路の活性化を介して,ヒト表皮細胞の遊走を有意に促進することを明らかにした.さらに,興味深いことに,FICZ によるこれらの作用は全て AhR 非依存的であった.以上より,本研究は,トリプトファン代謝物 FICZ の創傷治癒における新規機能を初めて明らかにしたものであり,FICZ の AhR 非依存的な機能を明らかにした報告でもある.FICZ は,生体内に内因性に存在する代謝物であるため高い安全性が予想され,新規創傷治癒促進薬になり得ると考えている。
【参考文献】
Morino-Koga S. et al., 6-formylindolo[3,2-b]carbazole (FICZ) accelerates skin wound healing via activation of ERK, but not aryl hydrocarbon receptor. J. Invest. Dermatol. in press.
*多数のご来聴をお待ちしています*
【連絡先】発生医学研究所 組織幹細胞分野 小川 峰太郎(内線6591)