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分  野損傷修復分野 (旧 組織制御分野)
掲載日2009年 6月 11日
タイトル
RAD18はG1期においてDNA修復因子53BP1をユビキチン化して、DNA二重鎖切断の修復を促進する

Kenji Watanabe, Kuniyoshi Iwabuchi, Jinghua Sun, Yuri Tsuji, Tokio Tani, Kazuaki Tokunaga, Takayasu Date, Mitsumasa Hashimoto, Masaru Yamaizumi, and Satoshi Tateishi (2009) . RAD18 promotes DNA double-strand break repair during G1 phase through chromatin retention of 53BP1. Nucleic Acids Res. 37, (7) 2176-2193

  細胞に紫外線が照射されて形成された DNA損傷はDNA複製を停止させ、発がんまたは細胞死の原因となる。これまで、 損傷修復分野 (旧 組織制御分野)の渡邊健司助教(現在デンマークがん研究所留学中)と 立石 智講師 らは、 停止した複製フォークに集積した RAD18タンパク質が、PCNAタンパク質にユビキチン分子を付加することにより、損傷を乗越えて複製できるタイプの複製酵素を呼び込み、複製を再開させることを報告してきた。今回、放射線照射により切断されたDNA損傷部位にRAD18が集積し、リン酸化ヒストンH2AX、チェックポイント制御因子ATM, 癌抑制因子BRCA1、DNA修復因子53BP1などと共局在することを見つけた。これらの因子に焦点を絞り、RAD18の集積に必要な因子を調査した結果、複製開始前のG1期には53BP1が必要であることがわかった。また、精製したRAD18は in vitro で53BP1の1268番目のリジンに対してユビキチン分子を付加する活性を示した。このリジン残基を変異させた53BP1は、DNA二重鎖切断部位に集積する効率が低下していた。また、RAD18欠損細胞では正常な53BP1の集積能力も低下していた。RAD18欠損細胞および53BP1欠損細胞は、細胞周期のG1期に最も高い放射線感受性を示し、かつ2つの遺伝子は同じ遺伝学的経路にあることがわかった。以上の結果から、RAD18はDNA二重鎖切断部位に集積し、53BP1のモノユビキチン化を介して、損傷を修復するというモデルを提唱した。この成果は、Nucleic Acids Res.誌第7号(4月)に掲載された。

 

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図 RAD18 による DNA 二重鎖切断損傷の修復促進モデル

 

放射線の照射または抗癌剤の投与等により、細胞の DNA が切断される。この DNA 二重鎖切断損傷に応答して、切断部位にリン酸化ヒストン H2AX 、 BRCA1 、 53BP1 等の因子が集積する。 RAD18 は切断部位に集積し、 53BP1 の 1268 番目のリジン残基をモノユビキチン化修飾することにより、 53BP1 のクロマチンへの結合力を高める。これにより 53BP1 による DNA 二重鎖切断損傷の修復を 促進する。