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分  野分子細胞制御分野
掲載日2017年8月1日
タイトル
分子シャペロンCdc48/p97/VCPが致死的なタンパク質分解反応を引き起こさない仕組み

Deviation of the typical AAA substrate-threading pore prevents fatal protein degradation in yeast Cdc48

Masatoshi Esaki*, Md. Tanvir Islam*, Naoki Tani, and Teru Ogura

Scientific Reports, 7, 5475, 2017 (*equal contribution)

 Cdc48(p97やVCPとも呼ばれる)は,全ての真核生物が持つAAA型分子シャペロンです。Cdc48は,細胞周期制御やタンパク質分解,DNA損傷修復,細胞小器官形態形成など,様々な細胞機能に関わっていることがわかってきましたが,どのように機能しているのかの詳細な作動原理はあまりよくわかっていません。多くのAAA型分子シャペロンは,基質タンパク質の高次構造をほどく作用を持っています。この構造変換作用には,AAA型分子シャペロンが形成する孔(チャネル)とそのチャネルの内側にあるループ構造が重要な役割を果たしており,基質タンパク質はAAAチャネルを通過することで高次構造がほどかれると考えられています。このAAA型分子シャペロンの典型的な作動原理は,「糸通しモデル」と呼ばれています。Cdc48は,AAAチャネルを2つ持ち,1つは「糸通しモデル」に典型的なループ構造の特徴を備えていますが,一方のAAAチャネル内のループ構造は,「糸通しモデル」に必須な特徴を備えていません。古細菌のCdc48ホモログはこの特徴を備えていることから,真核生物のCdc48のループ構造の1つは「糸通しモデル」に必須な特徴を進化の過程で欠落させたと考えられます。
 分子細胞制御分野(小椋 光教授)の江崎雅俊助教とMd. Tanvir Islam(HIGOプログラム大学院生)らは,出芽酵母のCdc48に「糸通しモデル」に必須な特徴を導入すると,細胞致死となることを見出しました。この致死性には,タンパク質分解活性を持つ20Sプロテアソームとの相互作用が関与していることがわかりました。真核生物の主要なタンパク質分解装置は,調節因子である19Sユニットと20Sプロテアーゼユニットからなる26Sプロテアソームです。19S制御ユニットの代わりにCdc48が結合したCdc48-20Sプロテアソームの存在が数年前に試験管内実験によって示されましたが,細胞内で実際に機能しているのかどうかは不明でした。今回の結果は,Cdc48-20Sプロテアソームが細胞内でも機能しうることを示しています。そこでこの新規プロテアソームの基質タンパク質を探索したところ,その1つとしてSod1を同定しました。Sod1は野生株では安定ですが,Cdc48の「糸通しモデル」変異株では,分解されることを見出しました。したがって,このCdc48の「糸通しモデル」変異は異常なタンパク質分解反応を引き起こし,それによって細胞致死となったと考えられます。このことは逆説的に,野生型のCdc48は「糸通しモデル」ではほとんど機能しないことを示唆しています。本研究は,Cdc48が「糸通しモデル」以外の作用機構で機能する可能性と,20Sプロテアソームと複合体を形成して「糸通しモデル」で機能するという二面性を持つことを示しています。この研究成果は2017年7月14日に,Scientific Reports誌に掲載されました。

 

 

図 Cdc48-20Sプロテアソーム複合体

Cdc48に「糸通しモデル」の特徴を導入すると,Sod1などのタンパク質の異常分解を引き起こし,細胞致死となる。