ニュープレス

⇒NewPress一覧へ

分  野組織幹細胞分野
掲載日2006 年 9月 12日
タイトル
c-Myb の強制発現は血管内皮細胞集団中の血液前駆細胞頻度を上昇させる

Guoyou Dai, Hiroshi Sakamoto, Yuri Shimoda, Tetsuhiro Fujimoto, Shin-Ichi Nishikawa, and Minetaro Ogawa (2006) Over-expression of c-Myb increases the frequency of hemogenic precursors in the endothelial cell population. Genes Cells 11, 859-870.

 胎生期の血管内皮細胞の一部は成体型血液細胞への分化能を持つことが知られている。血液細胞への分化能を持つ血管内皮細胞では転写因子 c-Myb の発現量が高いことから、 c-Myb は血管内皮細胞が内包する血液細胞分化プログラムの一員である可能性が示唆される。造血発生分野(小川峰太郎教授)の戴 国友研究員らは、正常マウス ES 細胞の試験管内分化系を利用して、テトラサイクリン依存的に c-Myb の過剰発現を誘導する実験系を構築した。 c-Myb 蛋白の寿命が非常に短いため、この実験系では過剰発現の速やかな解除が可能である。この利点を生かして血管内皮細胞の段階でだけ限定的に c-Myb の過剰発現を誘導し血液分化能に及ぼす影響を検討した。その結果、 c-Myb を過剰発現させた血管内皮細胞は、その後過剰発現を解除したにもかかわらず、対照に比べて3倍程度高い頻度で血液細胞コロニーを形成した。また、血液前駆細胞の自己複製能も顕著に上昇していた。 c-Myb を過剰発現させた血管内皮細胞では成体型造血に関与する様々な転写因子の発現亢進が認められた。以上の結果より、 c-Myb は血管内皮細胞から血液細胞系列が分岐する以前の段階において血液分化プログラムの一部として機能し得ることが明らかとなった。この研究成果は、 Genes Cells 誌8月号に発表された。

 

np09

 

図: c-Myb を過剰発現した血管内皮細胞による血液分化の促進

正常な血管内皮細胞に比べて c-Myb を過剰発現する血管内皮細胞は多くの血液前駆細胞を生み出し、 c-Myb の強制発現を解除しても血液前駆細胞の自己複製能が高く維持された。