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分  野細胞医学分野
掲載日2017年3月1日
タイトル
細胞の老化を防ぐ酵素「SETD8」を発見-老化をコントロールできる時代に向けて-

H. Tanaka, S. Takebayashi, A. Sakamoto, T. Igata, Y. Nakatsu, N. Saitoh, S. Hino, and M. Nakao. The loss of SETD8/PR-Set7 methyltransferase induces cellular senescence via nucleolar-mitochondrial coactivation. Cell Rep. 18: 2148-2161, 2017.

 

熊本大学HP
http://www.kumamoto-u.ac.jp/whatsnew/seimei/20170301

熊本日日新聞
http://kumanichi.com/news/local/main/20170301001.xhtml

読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/kyushu/news/20170301-OYS1T50010.html

西日本新聞

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/311585

京都新聞
http://www.kyoto-np.co.jp/environment/article/20170301000005

 熊本大学発生医学研究所 細胞医学分野の中尾光善 教授、田中宏 研究員(同大学院医学教育部博士課程修了)らは、網羅的な遺伝子解析を用いて、細胞の老化をブロックする酵素とそのしくみを初めて解明しました。「SETD8※1」は細胞増殖や数多くの遺伝子の働きを調節する酵素です。今回、老化細胞※2においてSETD8の量が著しく減少すること、また、正常な細胞でSETD8を阻害すると細胞が速やかに老化することが分かりました。また、老化細胞はエネルギー産出能力が高く、そのしくみも不明でしたが、SETD8が減少することによって細胞内の核小体※3とミトコンドリア※4に関わる遺伝子群の働きが活発化し、タンパク質合成とエネルギー産生が増加することを解明しました。
 この成果は、SETD8が減少することで細胞老化が促進されるメカニズムを明らかにしたことから、老化のしくみの解明および制御法の開発につながることが期待されます。

 本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業(AMED-CREST)、文部科学省科学研究費補助金、武田科学振興財団研究助成、熊本大学の博士課程教育リーディングプログラム「グローカルな健康生命科学パイオニア養成プログラムHIGO」および拠点形成研究の支援を受けて、科学雑誌「セル・リポート(Cell Reports)」オンライン版に米国(EST)時間の平成29年2月28日12:00【日本時間の3月1日(水)2:00】に掲載されました。

 

 

※1 SETD8:標的のタンパク質にメチル基(CH3)を付ける酵素で、細胞増殖と遺伝子の働きを調節する。ゲノムDNAを取り巻くヒストンタンパク質をメチル化して、遺伝子の働きを抑制する。
※2 細胞老化:細胞の増殖を不可逆的に停止した状態。活発な活動を行うため、細胞死とは異なる。この状態の細胞を老化細胞という。
※3 核小体:細胞核の中にある構造体で、リボソームにおけるタンパク質の合成を調節する。
※4 ミトコンドリア: 細胞質に多数ある構造体で、細胞のエネルギー産生を担う。
※5 ストレス: 細胞分裂による増殖、がん遺伝子の活性化、物理的・化学的な刺激などは、細胞老化を引き起こす。
※6 代謝:細胞が糖・タンパク質・脂質などを利用して、エネルギーを産生・消費する仕組み。