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分  野腎臓発生分野
掲載日2015年11月20日
タイトル
ヒトiPS細胞から誘導した腎臓糸球体が血管とつながる ~尿産生に向けた大きな前進~

Sazia Sharmin, Atsuhiro Taguchi, Yusuke Kaku, Yasuhiro Yoshimura, Tomoko Ohmori, Tetsushi Sakuma, Masashi Mukoyama, Takashi Yamamoto, Hidetake Kurihara and Ryuichi Nishinakamura (2015) Human induced pluripotent stem cell-derived podocytes mature into vascularized glomeruli upon experimental transplantation
J. Am. Soc. Nephrol. Epub ahead of print Nov19, 2015

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 腎不全による人工透析患者数は増加の一途をたどり、社会的問題にもなっているものの、腎移植の機会は限られています。網膜など多くの臓器で臨床応用も視野に入れた再生医療研究が進む一方で、腎臓を創ることは極めて困難とされていましたが、腎臓発生分野(西中村隆一教授)は2014年に、ヒトiPS細胞※1から試験管内で3次元の腎臓構造の作製に成功したことを報告しました (Taguchi et al., Cell Stem Cell, 2014)。
 多くの腎臓疾患では、血液から尿をろ過する糸球体※2という部位に支障を来します。糸球体のろ過機能は、血管に接するポドサイト※3という細胞が担っており、特殊なろ過膜によって水分は通り抜けるが血液中の蛋白質の大部分は尿に漏れないようになっています。そこで今回、腎臓発生分野のSazia Sharmin(医学教育部大学院生)、太口敦博助教らは、糸球体に焦点をあてて詳しく解析しました。まず、遺伝子改変によって、糸球体のポドサイトができると緑に蛍光発色するヒトiPS細胞を作製し、ヒト糸球体が試験管内で形成される様子を可視化することに成功しました(図A)。そして緑の蛍光を指標にヒト糸球体のポドサイトだけを取り出して解析し、試験管内で作ったものが、生体内で重要な機能をもつ遺伝子群を実際に発現することを明らかにしました。さらにiPS細胞由来の腎臓組織をマウス腎臓に移植すると、ヒトの糸球体にマウスの血管が取り込まれること、つまり誘導したポドサイトが血管を引き寄せる能力を持つことがわかりました(図B, C)。ヒト糸球体のポドサイトは、生体内と同じように血管と隣接することでさらに成熟し、特徴的なろ過膜構造を形成しました(図D)。糸球体内にはろ過を示唆する物質も観察されました(図B)。
本研究は、試験管内で作ったヒト腎臓糸球体が移植により血管とつながって、さらに成熟することを示したもので、尿を作るという腎臓の機能獲得へ向けた大きな前進です。またこの方法を元に腎臓の病気を再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発につながることが期待されます。本研究成果は、Journal of the American Society of Nephrology 誌 (アメリカ腎臓学会雑誌) オンライン版に2015年11月19日先行掲載されました。

※本研究は、順天堂大学の栗原秀剛教授、広島大学の山本卓教授らとの共同研究です。科学技術振興機構CREST「人工多能性幹細胞(iPS細胞)作成・制御等の医療基盤技術」、文部科学省科学研究費補助金、厚生労働省科学研究費補助金の支援を受けました。

※1 iPS細胞:皮膚・血液等の体細胞から作られた万能細胞
※2 糸球体:腎臓中で血液から尿をろ過する部位
※3 ポドサイト:糸球体のろ過機能を司る細胞。複雑な突起と特殊なろ過膜をもつ。

 

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図 ヒトiPS細胞由来の腎臓組織

A. 試験管内で作製した緑に光るヒト腎臓組織。丸い一つ一つが糸球体。
B. マウスへの移植によって血管を取り込んだヒトiPS細胞由来の糸球体。内部に多数の赤血球(矢尻)が見られ、拡張した腔内にはろ過を示唆する物質(*)が存在する。
C. マウス血管(緑色)がポドサイト(桃色)の間に入り込んでいる。
D. ポドサイトの細胞突起間に形成されたろ過膜構造(矢印)