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分  野腎臓発生分野
掲載日2015/8/27
タイトル
3次元器官形成能を維持したラット腎臓ネフロン前駆細胞の増幅培養法の確立

Tanigawa S, Sharma N, Hall MD, Nishinakamura R, Perantoni AO. Preferential propagation of competent SIX2+ nephronic progenitors by LIF/ROCKi treatment of the metanephric mesenchyme. Stem Cell Reports 5(3):435-447, 2015.

 人体の主要臓器の1つである腎臓は成体では再生しないが、発生期にはネフロン(糸球体や尿細管からなる機能単位)前駆細胞が存在し、自己複製しながらネフロンに分化する。しかしネフロン前駆細胞は出生後数日以内(前駆細胞形成から約10日後)にすべて分化して消失してしまう。このことが腎臓が再生しない一因であると考えられる。ネフロン前駆細胞を試験管内で長期間増幅培養させることはこれまで困難であった。 
腎臓発生分野(西中村隆一教授)の谷川俊祐特任助教(HIGOプログラム)らは、ラット胎児のネフロン前駆細胞を含む後腎間葉と呼ばれる組織を、細胞外因子LIFおよびROCK阻害剤Y27632を組み合わせた培地において培養すると、ネフロン前駆細胞の未分化状態を維持したまま17日間増幅できることを見いだした。さらに増幅した細胞は糸球体と尿細管というネフロンの3次元構造を再構成した(図)。このネフロン前駆細胞の増幅および分化能維持にはLIFの濃度が極めて重要であり、高濃度のLIF(10-50 ng/ml)ではPLCg経路およびJNK経路といった分化促進経路を活性化してしまう。しかし、低濃度のLIF(1 ng/ml)とY27632の組み合わせはこれらの経路を抑制する。さらにこの培養条件が、増殖•分化に重要な役割を果たすYAPの核内移行を促進することによって未分化状態の維持に働くことが明らかとなった。 
 この培養法は、未分化状態を維持したままネフロン前駆細胞を増幅することができ、これまで困難であった生化学的手法を用いた腎臓発生の分子メカニズム解析を可能とする有用なシステムとなり得る。また、腎臓発生分野では多能性幹細胞からネフロン前駆細胞を誘導することに成功している(Taguchi et al., Cell Stem Cell,2014)ため、今後は、マウスES細胞およびヒトiPS細胞由来のネフロン前駆細胞の増幅培養への応用など、腎臓再生医療の基盤構築に向けて大きく前進することが期待される。
 本研究は、谷川が以前在籍した米国NCI/NIHのグループとの共同研究によって行われStem Cell Reports誌電子版に2015年8月27日先行掲載された。

 

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図.ラットネフロン前駆細胞の増幅培養

胎生13日の腎臓からネフロン前駆細胞を単離し、LIFとY27632を添加した培地で17日間継代培養。増幅した細胞は糸球体と尿細管の3次元立体構造を形成する。