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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2014年 4月 18日
タイトル
ヒト多能性幹細胞の未分化能維持と分化におけるメチオニン代謝の役割

Nobuaki Shiraki, Yasuko Shiraki, Tomonori Tsuyama, Fumiaki Obata, Masayuki Miura, Genta Nagae, Hiroyuki Aburatani, Kazuhiko Kume, Fumio Endo, Shoen Kume. Methionine Metabolism Regulates Maintenance and Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells. Cell Metabolism, doi: 10.1016/j.cmet.2014.03.017

 ES/iPS細胞といった多能性幹細胞では,分化細胞とは異なる代謝プログラムを保持していることがわかっており、その代謝プログラムが幹細胞の未分化維持や自己複製能などに関与することも明らかになってきている。アミノ酸代謝と幹細胞との関係については2009年に、マウスES/iPS細胞の生存にはアミノ酸の一種であるスレオニンが必須であることが報告されていたが、ヒト多能性幹細胞におけるアミノ酸代謝の役割は不明であった。 

 今回、多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)の白木伸明助教らは、メチオニン代謝がヒトES/iPS細胞の未分化維持および分化を制御していることを明らかにし、メチオニンを除去した培養液を利用した分化促進および未分化細胞の選択的除去に世界で初めて成功した。 

ヒト多能性幹細胞であるヒトES/iPS細胞を用いた検討により、生存にはマウスの場合とは異なるアミノ酸であるメチオニンが必須であり、その代謝物であるSアデノシルメチオニン(SAM)を介してヒトES/iPS細胞の未分化維持および分化を制御することを見出した。さらに、未分化細胞は分化した内胚葉細胞と比較して、生存により多くのメチオニンが必要であることも見出した。未分化なヒトES/iPS細胞をメチオニン除去培養液で培養すると、細胞内のSAM濃度が顕著に低下し、それに伴いp53の発現上昇、ヒストンH3の4番目のリジン残基のトリメチル化(H3K4me3)の低下、未分化マーカーであるNanogの発現低下が起こった。続いて、ヒトES/iPS細胞がもつ代謝特性の分化誘導へ応用を試みた結果、未分化過程においてメチオニン除去後に内胚葉・中胚葉・外胚葉へそれぞれ分化誘導すると顕著な分化促進効果を確認した。さらに、内胚葉への分化誘導過程においてメチオニン除去培養液で培養することにより、残存する未分化細胞特異的に細胞死を誘導することができ、その後の肝臓分化を効率的に行うことに成功した。

 本研究により、これまで不明であったヒトES/iPS細胞におけるメチオニン代謝の役割を明らかにすることができた。さらに未分化細胞の高いメチオニン代謝特性を利用し、メチオニン除去培養液を利用する未分化状態からの分化促進と内胚葉分化過程での肝臓分化の効率化という2つの新たな分化誘導方法を構築した。これらの結果は幹細胞におけるアミノ酸代謝の新たな知見をもたらすとともに、ヒトES/iPS細胞を利用した創薬研究および再生医療に寄与できると考える。本研究成果は 2014 年4月18日に Cell Metabolism 誌電子版に先行掲載された。

 

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図 ヒトES/iPS細胞におけるメチオニン代謝の役割

ヒトES/iPS細胞では分化した内胚葉と比較してメチオニン代謝が盛んであり、メチオニン除去培地で短期間培養すると細胞は一時的に分化しやすい状態になり、長時間培養すると細胞死が起きる。