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分  野分子細胞制御分野
掲載日2014年 2月 13日
タイトル
AAA型シャペロンBcs1のN末端 α-helix領域は,ミトコンドリアの呼吸鎖複合体形成に必須である

Rie Sawamura, Teru Ogura and Masatoshi Esaki (2014) A conserved α helix of Bcs1, a mitochondrial AAA chaperone, is required for the Respiratory Complex III maturation. Biochem. Biophys. Res. Commun. 443: 997-1002.

 ミトコンドリアは,細胞活動に必要なエネルギーを産生する重要な細胞内小器官である。Bcs1(ubiquinol-cytochrome c reductase (bc1) Synthesis)はミトコンドリア内膜に存在し,エネルギー産生に関与する呼吸鎖複合体の形成に必要なAAAタンパク質である。AAAタンパク質には,不要となったタンパク質の分解などに関わるものが多いが,Bcs1はタンパク質複合体の形成に関わるという点において興味深い。Bcs1のヒトホモログの変異によって致死疾患などが引き起こされることが報告されており,Bcs1の機能解析は,これらの疾患の発症メカニズムの解明にも貢献する。酵母のBcs1については解析が進んでおり,呼吸鎖複合体ⅢのサブユニットRip1(Rieske iron sulfur protein)の未成熟複合体Ⅲへの会合に必須であることが明らかになっている。

 今回,分子細胞制御分野(小椋 光教授)の澤村理英(博士課程大学院生・学振特別研究員)らは,これまで機能未知であったBcs1のN末端領域(ミトコンドリア内膜と外膜に挟まれた膜間部に位置する)が,Bcs1の機能に必須であることを明らかにした。Bcs1の膜間部N末端領域は,生物種によって長さが異なり,高等生物になるほど短い傾向にある(図)。本研究により,酵母Bcs1の膜間部のN末端領域44残基のうち,膜貫通領域に近い保存された3残基(L38, S39, K40)の配列とα-helix構造だけがBcs1の機能に必須であることを明らかにした。また,この3残基の配列とα-helix構造は他の生物種でも保存されていることが分かった。進化の過程で不要な配列が洗練され,Bcs1の機能に必須な領域のみが残ったのではないかと考えられる。これらの研究成果は,2014年1月Biochem. Biophys. Res. Commun.443巻3号に掲載された。

 

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図 膜間部に位置するBcs1のN末端領域の短い配列(赤枠)とα-helix(淡紅色)はBcs1の機能に必須であり,高い保存性を示す。H: α-helices, E: β-sheets.