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分  野分化制御分野
掲載日2013年 7月 2日
タイトル
細胞の位置が体と胎盤とを作り分ける仕組みを解明

Yoshikazu Hirate, Shino Hirahara, Ken-ichi Inoue, Atsushi Suzuki, Vernadeth B. Alarcon, Kazunori Akimoto, Takaaki Hirai, Takeshi Hara, Makoto Adachi, Kazuhiro Chida, Shigeo Ohno, Yusuke Marikawa, Kazuki Nakao, Akihiko Shimono, Hiroshi Sasaki

“Polarity-Dependent Distribution of Angiomotin Localizes Hippo Signaling in Preimplantation Embryos”

Current Biology (2013), http://dx.doi.org/10.1016/j.cub.2013.05.014

 ヒトやマウスなど哺乳類の胚は、子宮に着床する前に、将来体を作る細胞と、胎盤などの母体からの栄養を胚に届ける働きをする組織を作る細胞との、2種類の細胞を作ります。体を作る細胞は着床前の胚の内側に作られ、胎盤を作る細胞は外側に作られます。これまでに、分化制御分野の佐々木洋教授らは、どちらの細胞を作るかは、ヒッポシグナルという、がん抑制シグナルが決めることを見出していましたが、どのようにして、胚の中の細胞の位置がヒッポシグナルを働かせるのか、その仕組みはわかっていませんでした。

  今回、分化制御分野の平手良和助教らは、まず、マウスの着床前胚の中でヒッポシグナルが働く仕組みを研究し、Amotというタンパク質が、細胞接着装置に結合していると、ヒッポシグナルが働くことを見出しました。さらに、内側の細胞ではAmotが細胞接着装置に結合しているために、ヒッポシグナルが働くのに対して、外側の細胞では、細胞が極性化しているために、Amotが細胞接着装置から切り離されることで、ヒッポシグナルが働かないことを突き止めました。すなわち、着床前の胚の中で、細胞は、位置によって異なる細胞同士の接着と細胞の極性化の情報を利用して、ヒッポシグナルが働くかどうかを決め、胎盤を作る細胞と胚を作る細胞とを作り分けていることが明らかになりました(図) 。

 細胞同士の接着、細胞の極性化は、体の中のほとんどの臓器の細胞で見られる基本的な現象であること、また、ヒッポシグナルは、がん抑制シグナルであることから、さまざまな臓器の発生研究やがん研究に大きな手がかりを与えるものです。本研究成果はCurrent Biology 誌オンライン版(6月20日付け)に先行掲載されました。また、本論文の写真が掲載誌(7月8日号)の表紙を飾りました。

 

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図 細胞の極性化と細胞接着がヒッポシグナルを調節する 

 

着床前胚の内側の細胞では、細胞間の接着がヒッポシグナルを働かせる。しかし、外側の細胞では、細胞が極性化しているため接着していてもヒッポシグナルが働かない。