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分  野組織幹細胞分野
掲載日26-Nov-2024
タイトル
造血幹細胞の発生初期を司るシグナル分子を解明

論文名:Bone morphogenetic protein 4 induces hematopoietic stem cell development from murine hemogenic endothelial cells in culture.

著者:Tsuruda M., Morino-Koga S., Zhao X., Usuki S., Yasunaga K-i., Yokomizo T., Nishinakamura R., Suda T., and Ogawa M*.

掲載誌:Stem Cell Reports

doi:10.1016/j.stemcr.2024.10.005

URL:https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2024.10.005

熊本大学HP

ポイント

 

概要説明
 造血幹細胞は成体では骨髄に存在しますが、その起源は胎生期の背側大動脈内皮に遡ります。背側大動脈を構成する血管内皮細胞の中には、造血性内皮細胞という将来造血幹細胞に分化する細胞が存在します。この造血性内皮細胞は、初期と後期の異なる分化段階があり、後期の造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化を調節するシグナル分子については解明が進んでいます。しかし、初期の造血性内皮細胞の分化を調節するシグナル分子は未だよく分かっていませんでした。今回、熊本大学発生医学研究所組織幹細胞分野の小川峰太郎教授、古賀沙緒里助教および鶴田真理子大学院生らの研究グループは、初期の造血性内皮細胞が造血幹細胞に分化するためにBMP4が必要であることを明らかにしました。

  本研究では、試験管内にBMP4を培養開始から中期まで添加することで初期の造血性内皮細胞から造血幹細胞を分化誘導することに成功しました。マウス胎仔の血管内皮細胞には、細胞表面にBMP4受容体を持つ細胞と持たない細胞が存在し、造血幹細胞のもととなる初期の造血性内皮細胞はBMP4受容体を持つことが分かりました。また、BMP4受容体を持たない血管内皮細胞が何らかのシグナル分子を供給することで初期の造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化を助けていることも分かりました。上記の研究結果から、初期の造血性内皮細胞はBMP4受容体を細胞表面に持っており、造血幹細胞へ分化するために初期段階でBMP4を必要とすることが明らかになりました。また、BMP4受容体を持たない血管内皮細胞が産生するシグナル分子も造血幹細胞の発生に必要であることが明らかになりました(図1)。胎仔生体において背側大動脈に存在する初期の造血性内皮細胞が、大動脈の周辺組織から供給されるBMP4や、隣接する血管内皮細胞から供給される他のシグナル分子の作用を受けて、造血幹細胞に分化すると考えられます。
本研究結果は、造血幹細胞の発生におけるBMP4の役割について新たな視座を提供するものです。今後、造血幹細胞発生の初期段階を制御するシグナル分子の全容を解明することで、多能性幹細胞由来の造血幹細胞創出に繋がることが期待されます。

 

  本研究成果は、国際幹細胞学会の機関誌「Stem Cell Reports」のオンライン版に2024年11月15日(日本時間)に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、公益財団法人日本科学協会笹川科学研究助成、公益財団法人肥後医育振興会医学研究助成、熊本大学健康・生命科学S-HIGOプロフェッショナルフェローシッププログラム、熊本大学発生医学研究所共同研究拠点、熊本大学発生医学研究所高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、文部科学省共同利用・共同研究システム形成事業学際領域展開ハブ形成プログラムなどの支援を受けて実施されました。

 

図1.初期の造血性内皮細胞から造血幹細胞への分化誘導

マウス胎仔の背側大動脈にある初期の造血性内皮細胞は細胞表面にBMP4受容体を持つ。初期の造血性内皮細胞にBMP4と血管内皮細胞が産生するシグナル分子を共に作用させると造血幹細胞に分化する。

 

用語解説
*1. 造血幹細胞:全ての血液細胞に分化できる能力と自分自身を複製する能力を併せ持つ幹細胞。胎生期に背側大動脈の内皮から発生し、成体では骨髄に存在する。

*2. 造血性内皮細胞:血管を裏打ちする血管内皮を構成する血管内皮細胞のうち、血液細胞に分化する能力(造血性)を持つ特殊な細胞を造血性内皮細胞という。胎生期の背側大動脈に一時的に発生し、造血幹細胞の元になる。造血性内皮細胞には初期と後期の異なる分化段階がある。

*3. シグナル分子:細胞の機能を調節する信号を細胞に伝える分子。それぞれのシグナル分子に特異的な受容体を細胞が持ち、受容体にシグナル分子が結合すると、増殖、分化、遊走、活性化、不活化などの様々な細胞応答を引き起こす。タンパク質、脂質等、様々な物質がシグナル分子として働くことが知られている。

*4. BMP4:骨形成タンパク質(Bone morphogenetic protein)の一つ。骨など様々な組織の形成や、体の構造の形成など、幅広い役割を担うシグナル分子。

*5. 多能性幹細胞:胚性幹細胞(ES細胞)やiPS細胞など、個体を構成するすべての種類の細胞に分化することができる能力と自分自身を複製する能力を併せ持つ幹細胞。

*6. 支持細胞:特定の細胞を培養する際に共存させ、その細胞の接着、増殖、分化などを助ける細胞。本研究では、血管内皮細胞株を単層に培養したものを支持細胞として用いている。