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分  野胎盤発生分野
掲載日14-Dec-2023
タイトル
ヒト胎盤の発生・分化を調節する新たな仕組みを解明 -胎盤の異常を伴う周産期疾患の病態解明、治療法や予防手段の開発に期待-

Takanori Shimizu#, Akira Oike#, Eri H Kobayashi#, Asato Sekiya, Norio Kobayashi, Shun Shibata, Hirotaka Hamada, Masatoshi Saito, Nobuo Yaegashi, Mikita Suyama, Takahiro Arima*, Hiroaki Okae*. CRISPR screening in human trophoblast stem cells reveals both shared and distinct aspects of human and mouse placental development.

PNAS. In press. #: Co-first authors, *: Corresponding authors

Doi: 10.1073/pnas.2311372120

 

Link: https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/pressrelease/2023-file/release231214.pdf

Link: https://totipotency.biken.osaka-u.ac.jp/news/achievements/20231214(滋賀医科大学・武藤真長先生による紹介記事)

熊本大学HP

【ポイント】

・研究グループは、2018年に世界で初めてヒトの胎盤幹(TS)細胞の樹立を報告しました。

・本研究では、ヒトTS細胞の増殖や分化を制御する遺伝子を網羅的に同定し、ヒトとマウスの胎盤発生を制御する仕組みにはさまざまな違いが見られることを明らかにしました。

・胎盤の機能障害を原因とする周産期疾患の病態解明やその治療法、予防法の開発への応用が期待されます。

 

【概要説明】

熊本大学発生医学研究所の岡江寛明教授、東北大学大学院医学系研究科の有馬隆博教授らの研究グループは、ヒト胎盤の発生を調節する仕組みを解析し、マウス胎盤との共通性と多様性を明らかにしました。本研究は、ヒト胎盤の発生の仕組みについて基礎的な理解を深めるだけでなく、周産期医学に広く貢献し、母児双方の健康に役立つと期待されます。本研究成果は、文部科学省科学研究費助成事業、日本医療研究開発機構(AMED)などの支援を受けて、日本時間2023年12月12日(米国東部時間12月11日)米国科学アカデミー紀要PNASに掲載されました。

 

胎盤は、着床から出産に至るまでの間、哺乳類の胎仔の生存と発育を支えています。さらに、胎盤の異常は、妊娠高血圧症候群や胎児発育不全など、さまざまな周産期疾患の発症にかかわると考えられています。従来の胎盤発生に関する研究は、主に実験動物であるマウスを用いて行われてきました。しかし、胎盤の形態や構成細胞は種によって大きく異なっているため、マウスで得られた知見がヒトを含む他の哺乳類にどの程度当てはまるのかはよく分かっていませんでした。

研究グループは、世界で初めてヒト胎盤幹(TS)細胞の培養に成功し、この細胞がヒト胎盤の発生を研究するための優れたモデルになることを報告してきました(Cell Stem Cell 2018, PNAS 2019, Nat Commun 2022など)。本研究では、CRISPRスクリーニングと呼ばれる手法を用いて、ヒトTS細胞の増殖・分化を制御する遺伝子の機能を網羅的に解析しました。さらに、得られた結果とこれまでに報告されている遺伝子改変マウスの表現型を比較することで、ヒトとマウスの胎盤発生を制御する仕組みにはさまざまな違が見られることを明らかにしました。

本研究の成果は、ヒトの胎盤発生の仕組みを理解するうえで重要な基盤情報となるとともに、胎盤の異常を伴う周産期疾患の発症機構の理解や予防法・治療法の開発にも貢献すると期待されます。さらに、哺乳類の胎盤の多様化をもたらした分子機構の理解にも役立つと考えられます。

 

 

図. 遺伝子機能に基づくヒトとマウス胎盤の比較

A) ヒトとマウスの胎盤構造。胎盤の主要な構成細胞は栄養膜細胞と呼ばれます。ヒトの場合、栄養膜細胞は細胞性(CT)、絨毛外(EVT)、合胞体(ST)の3種類に分類されます。ヒトTS細胞はCT細胞によく似た性質を持っています。マウスの胎盤は、ラビリンス層、スポンジオトロフォブラスト層、Trophoblast giant cell (TGC)層からなります。

B) ヒトTS細胞とマウス胎盤における遺伝子機能の比較。赤色はヒトTS細胞の増殖もしくは分化に必須の遺伝子を、青色は増殖もしくは分化を阻害する遺伝子を示しています。ヒトとマウスTS細胞の増殖に必要な遺伝子は大きく異なることが明らかとなりました。