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分  野細胞医学分野
掲載日15-May-2023
タイトル
全遺伝子の発現変動を「見える化」するアプリの開発 -天然化合物「スルフォラファン」の新たな機能を解明-

K. Etoh and M. Nakao. A web-based integrative transcriptome analysis, RNAseqChef, uncovers cell/tissue type-dependent action of sulforaphane. J. Biol. Chem. (in press)

 

熊本大学HP

細胞医学分野・研究成果概要

RNAseqChef

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ポイント

 

 

概要説明
 熊本大学発生医学研究所細胞医学分野の衛藤 貫研究員と中尾光善教授は、プログラミング言語を用いて、RNAシークエンス(RNA-seq)法により取得した遺伝子の発現情報を自動的に解析するウェブアプリ「RNAseqChef」を新たに開発・公開しました(http://imeg-ku.shinyapps.io/RNAseqChef)。RNA-seq法は遺伝子の働きを調べる上で、生命科学分野において幅広く用いられる基本的な技術です。国内外の公共データベースには様々な細胞・組織のRNA-seqデータが集約されていますが、情報科学の専門知識が必要なため、多くの研究者が利用するにはハードルがあります。本研究により、情報科学の習得の有無にかかわらず、学生・初心者、医師及び産官学の研究者を含めて、再現性のあるRNA-seqデータの解析が簡便に効率よく可能になります。

 ブロッコリー等に含まれる天然化合物「スルフォラファン」は抗酸化や抗炎症、抗肥満など、健康増進につながる多様な効果を有することが報告されています。その一方で、スルフォラファンが細胞・組織に対してどのようなメカニズムで作用するのかは明らかでありません。RNAseqChefの科学的な有用性を実証するために、公共データベースの中から、スルフォラファンを投与したヒト培養細胞とマウスで取得されたRNA-seqデータを解析しました。その結果、細胞・組織の種類によってスルフォラファンへの感受性や応答が異なることが明らかになりました。さらに、スルフォラファンの作用機序として、抗酸化を促進する制御因子「NRF2」を活性化することが唯一知られています。RNAseqChefによる解析で、小胞体ストレス応答を誘導する制御因子「ATF6」を活性化することが明らかになりました。高脂肪食による肥満マウスにスルフォラファンを投与して得られたRNA-seqデータを調べたところ、肝臓特異的に小胞体ストレス応答の遺伝子発現が促進されることが分かりました。スルフォラファンが生体機能を高める分子機序の解明につながると考えられます。

 RNAseqChefを無償公開することで、遺伝子発現のビックデータが上記のように簡便に効率よく解析可能となり、医学・薬学・農学などの幅広い生命科学分野の研究の加速、とりわけ、臨床研究のデータ解析、化合物・薬剤の作用機序の解明などへの貢献が期待されます。
本研究成果は、文部科学省科学研究費助成事業、熊本大学発生医学研究所高深度オミクス事業研究助成などの支援を受けて、米国生化学・分子生物学会誌「Journal of Biological Chemistry(JBC)」オンライン版に英国(GMT)時間の令和5年5月11日【日本時間の5月12日】に掲載されました。また、本研究成果はJBCの「Editors’ Picks」にも選ばれました。