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分  野ゲノム神経学分野
掲載日1-Mar-2023
タイトル
RNA構造「G4」がストレス顆粒の核となる
~神経変性疾患の新しい治療標的の可能性~

論文名:RNA G-quadruplex organizes stress granule assembly through DNAPTP6 in neurons

著者:Sefan Asamitsu#*, Yasushi Yabuki#, Kazuya Matsuo1, Moe Kawasaki,

Yuki Hirose, Gengo Kashiwazaki, Anandhakumar Chandran, Toshikazu Bando, Dan Ohtan Wang, Hiroshi Sugiyama, Norifumi Shioda* (# Co-first authors; * Co-corresponding authors)

掲載誌:Science Advances

doi:10.1126/sciadv.ade2035

熊本大学HP掲載記事

ポイント

 

概要説明

RNAの構造は、翻訳過程・メッセンジャーRNA(mRNA)*3の分解・炎症反応など多面的な生理的機能に関与します。特にグアニンが連続した配列は、「グアニン四重鎖構造(G4)」と呼ばれる4本鎖構造を形成することがあります。ヒト細胞の約2,300種類のmRNA中にはG4が約3,800カ所形成されることが予測されています。しかし、mRNA中に存在するG4の役割は未解明でした。
熊本大学発生医学研究所ゲノム神経学分野の塩田倫史教授、矢吹悌助教、朝光世煌研究員(現:理化学研究所研究員)らは、G4がストレスに応答して細胞に形成される「ストレス顆粒」の核となり、その形成を制御することを見出しました。また、ストレス顆粒の形成が妨げられると、神経細胞のストレス刺激による機能低下が促進されることを初めて発見しました。ストレス顆粒の形成は筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の発症と密接に関与することが指摘されています。ストレス顆粒にG4が集積する機構を解明できれば、神経変性疾患の新しい治療法の開発につながる可能性があります。
本研究成果は、MEXT/JSPS科研費(JP20K15417, JP20J00520 [朝光], JP21K06579 [矢吹], 22K19297, 21H00207, 20K21400, JP20H03393 [塩田])、JST戦略的創造研究推進事業ACT‐X(JPMJAX2111 [朝光])、JST創発的研究支援事業(JPMJFR2043 [塩田])、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業(JP20ek0109425 [塩田])、アステラス病態代謝研究会[塩田]、熊本大学国際先端研究拠点および熊本大学発生医学研究所高深度オミクス事業研究助成の支援を受けて、米国科学振興協会(AAAS)が発行する科学誌「Science Advances」に令和5年2月24日午後2時(米国東部標準時)(日本時間令和5年2月25日午前4時)にオンライン掲載されます。

 

 

説明

[研究の内容]
細胞は、熱・酸化ストレス・ウイルス感染などの刺激を受けることで細胞内のmRNAのタンパク質合成(翻訳)が停止します。翻訳停止中のmRNAは、細胞内部にストレス顆粒を形成します。ストレス顆粒は細胞のストレス応答に対する様々な反応の場として重要な役割を担っており、翻訳停止中のmRNAの一時的な保管場所とされています。しかしながら、ストレス顆粒の形成を調節する因子は未解明でした。
本研究グループは、マウス脳を用いた生化学実験およびバイオインフォマティクス解析を実施し、RNA構造のひとつであるG4が神経細胞のストレス顆粒を構成する主要因子であることを発見しました。また、細胞内におけるmRNA中のG4が、本研究グループが新たに見出したG4結合タンパク質であるDNAPTP6と液-液相分離(LLPS)*4を介してストレス顆粒の形成を制御することを明らかにしました。G4はそれ自体で相分離を起こす能力が強く、G4を形成するmRNAがストレス顆粒に濃縮されることが分かりました。さらに、G4のRNA相分離はDNAPTP6のタンパク質相分離を促進させました。そしてDNAPTP6の発現量を人為的に抑えると、ストレス顆粒が形成されにくくなり、ストレスから細胞を防御する機構が働かなくなることから神経細胞の機能低下と細胞死を誘導しました(図)。

 

図の説明 : 細胞ストレス刺激により、G4を形成するmRNAとG4結合タンパク質であるDNAPTP6 は、各々LLPSにより集合し液滴を形成する。さらに、これらが融合することでストレス顆粒の一部を形成する。また、DNAPTP6の抑制によるストレス顆粒の形成不全は、神経細胞のストレス脆弱性を引き起こす。

 

[成果・展開]
今回の成果は、神経細胞におけるG4依存的な相分離によるストレス顆粒形成の機能的役割を明らかにしたものです。ストレス顆粒の形成は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の発症要因と密接に関与することが指摘されています。今後、ストレス顆粒にG4が集積する機構を解明できれば、神経変性疾患の新しい治療法の開発につながる可能性があります。

 

[用語解説]
*1 グアニン四重鎖構造(G4)
DNAおよびRNAの高次構造の一種。グアニンに富む核酸配列で形成される。4つのグアニンが四量体を作った面(G-カルテット)が2面以上重なった構造体。その構造特性からG4とも呼ばれる。

*2 ストレス顆粒
ストレス刺激に応答して一過性に形成される細胞内構造体。ストレスから細胞を防御する機構として考えられている。

*3 メッセンジャーRNA(mRNA)
DNAの塩基配列を鋳型としてRNA合成酵素により合成され、合成後はリボソームと結合してタンパク質合成(翻訳)に利用される。

*4 液-液相分離(LLPS;liquid-liquid phase separation)
2つの液体が混ざり合わずに互いに排除しあうことで2相に分離する現象。細胞内では核酸やタンパク質が液-液相分離を起こして周囲とは異なる液相ができ、膜のないオルガネラ(細胞内小器官)として液滴を形成する。LLPSは、ヘテロクロマチン形成、ストレス顆粒の形成、細胞極性化など多くの細胞内現象に関与する。