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分  野染色体制御分野
掲載日1-Jun-2021
タイトル
精子形態形成に先駆けて減数分裂プログラムの完了に働く新規遺伝子を発見

Horisawa-Takada Y, Kodera C, Takemoto K, Sakashita A, Horisawa K, Maeda R, Shimada R, Usuki S, Fujimura S, Tani N, Matsuura K, Akiyama T, Suzuki A, Niwa H, Tachibana M, Ohba T, Katabuchi H, Namekawa S, Araki K, Ishiguro K

Meiosis-specific ZFP541 repressor complex promotes developmental progression of meiotic prophase towards completion during mouse spermatogenesis

 Nature Communications (2021) DOI : 10.1038/s41467-021-23378-4

 

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 熊本大学発生医学研究所・染色体制御分野の高田幸助教、小寺千聡(現:本学付属病院・産科婦人科)、竹本一政研究員らのグループは、精子形成において減数分裂のプログラムの終結に必須の働きをする新しい遺伝子を発見しました。この発見により、精子形態形成に先駆けて減数分裂のプログラムが不活性化される仕組みがわかりました。

 

 卵巣や精巣では減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて、染色体の数が元の半分になることにより卵子や精子が作り出されます。また、精巣では減数分裂が完了すると、引き続きDNAが高度に凝縮されて精子形成に特徴的な大きな形態変化が生じます。この過程で精子の形態変化に向けて、それまで活発であった多くの遺伝子の発現が不活性化されます(図1)。しかしながら、減数分裂のプログラムを適切な時期に終結に向かわせるメカニズムの詳細は不明であり、男性の不妊症などの生殖医療とも直結する重要な問題でありながら、世界的にも長年解明されない課題でした。

 当研究グループでは、以前減数分裂の開始因子MEIOSINを発見した際に、それによって多くの減数分裂関連遺伝子が一斉に活性化されることを明らかにしていました。それらの中には、まだ十分に機能が解明されていない遺伝子が多く残されており、今回、そのうちの一つである「ZFP541」についてより詳細な解析を行いました。

 遺伝子の発現パターンの解析からZFP541は減数分裂の終盤から精子形成期の核に出現することが明らかとなりました(図1)。次にゲノム編集によりマウスのZFP541遺伝子の働きをなくすと、オスの生殖細胞がいったんは減数分裂を始めるものの、減数第一分裂前期の終盤で死滅して精子がまったく作られず不妊となることが判明しました(図2)。

 

 

図2  ZFP541欠損マウスは雄性不妊を示す

 

 ChIP-seq法と呼ばれる解析により、ZFP541は多くの遺伝子のプロモーターと呼ばれる調節領域に結合していることが明らかになりました。このプロモーターと呼ばれる調節領域上には、アセチル化ヒストンというタンパク質が存在しており、遺伝子発現のON状態を持続させるマークとして働くことが知られています。さらに質量分析法とよばれる解析により、ZFP541は、HDAC1とよばれる酵素とKCTD19というこれまた機能未知の因子と結合することを特定しました。KCTD19もZFP541と同様に精巣で高い発現を示すことや、Kctd19遺伝子を欠損させるとZfp541欠損マウスと同様に減数第一分裂を完了できずに不妊となることが判明し、KCTD19はZFP541と対をなして共に働くことがわかりました。また先行研究から、HDAC1酵素は遺伝子の活発状態のマークとして働くヒストンのアセチル基を取り除くことが知られています。これらの解析結果を総合して、ZFP541は、HDAC1酵素を呼び寄せて遺伝子活性状態のマークであるアセチル基を消去することにより、多くの遺伝子の発現を不活性化させ、減数分裂のプログラムを完了させるというメカニズムが明らかとなりました(図3)。

 

図3  ZFP541転写抑制複合体は減数第一分裂前期の完了に働く

 

 本研究成果は令和3年6月1日、科学学術誌 Nature communications のオンライン版に掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(非ゲノム情報複製)の支援を受けて、カリフォルニア大学Davis校、大阪大学生命機能研究科、慶應大学医学部、本学大学院生命科学研究部・産科婦人科学講座、本学生命資源研究・支援センターとの共同で実施されました。