ISSCR 12th Annual Meeting 参加報告
June 18-21, 2014 Vancouver (CANADA)
腎臓発生分野
太口敦博
2014年6月18日から4日間の日程で行われた第12回国際幹細胞学会年会に参加し、口頭発表を行ったので参加報告をさせていただく。
今回の学会で感じた重要なメッセージの一つは、ES、iPS細胞の樹立から相応の時間が経とうとしているが、未だにいかに多能性を維持したまま安定に培養するか、あるいは、株間の分化応答性の違いなど、分化応用へのスタート地点とも言える部分が重要課題として継続的に研究すべき問題であるということである。つまり、単なるマーカー遺伝子発現や奇形腫の形成能といった基本的な多能性幹細胞の特徴を有しているにもかかわらず分化に対する反応性が異なるという現象や、あるいは継代中に分化能が失われたり揺らいだりしてしまうということが、どのようなメカニズムで説明できるのか、またこれらを細胞を分化させずとも予想できるような方法があるのか、という点は引き続き重要なポイントとなっている。この点はいわゆる企業ベースの市販品開発とも深く関与しており、各社が自社製品の利点をアピールしているが、現状その評価系も画一的なものがなく、依然混沌としている印象である。その他、ヒトの多能性幹細胞でもマウスの多能性幹細胞と同様にナイーブな未分化状態で培養しようとする試みや、このnaïveとprimedの違いを数理学的に解析しようとする試み、また単一細胞からのRNA-seq技術を用いた網羅的解析など新たな方法論を用いながら、多画的に多能性幹細胞の未分化性や分化制御を解析しようとする試みが多く紹介されていた。
自分自身の発表はTRANS DIFFERENTIATIONのセッションでの発表で、他にはオーストラリアで同じく腎臓誘導を行っているグル―プや膵臓・内胚葉誘導の話も含まれていた。同時進行の口頭発表枠自体がそれほど多くなかったこともあり、著名な先生も含め、後から実は会場で聞いていたと色々な方から声を掛けていただき、とても貴重な機会をいただけたことを実感した。今回の国際幹細胞学会は北米大陸での開催であったこともあり、世界中の著名な幹細胞学に携わる科学者が参加していた。レセプションにも参加させていただく機会を得たが、これまで幾多の幹細胞学領域における“mile stone”とされる論文を世に送り出されてきた研究者が集う様子は圧巻であった。個人的には、特に初期の中胚葉誘導において、その論理的な実験系に感銘を受けていたGordon Keller教授と直接お話が出来たことや、その人の前で発表をできたことはとても感慨深いものがあった。初めて直にお会いすると、年齢を感じさせないバイタリティと共に、常に通りすがる人が笑顔で挨拶をしていくような気さくな雰囲気に驚いた。最後に、学会発表に際して旅費支援をいただき、このような貴重な機会を与えていただいた「国際先端研究拠点における研究成果発表支援」プログラムに深く感謝の意を表し締めくくらせていただきたい。