国際先端研究拠点
国立大学法人熊本大学 国際先端研究拠点
学術集会参加報告 2014年度

報告書:国際先端研究拠点支援による学会発表について

生命科学研究部 神経分化学分野 伊藤尚文

 乳酸菌によるヒト皮膚線維芽細胞の初期化についてフラッシュトークとポスター発表を行った。フラッシュトークは約50人、ポスターは発表期間2日間の間に約50名に対し、プレゼンテーションを行った。

発表内容の要約
・乳酸菌とヒト皮膚線維芽細胞(HDF)の共培養によって、HDFは特徴的な細胞塊を形成する。
・細胞塊は多能性遺伝子マーカーの発現が見られる。
・細胞塊はin vivo、in vitroの両方で骨や脂肪などの他の細胞に転換することができる。

質問のあったこと
・細胞塊はポスターで表示している骨や脂肪細胞以外に分化することは可能なのか?
→まだ試していないですが、三胚葉由来の細胞に分化することは可能なので、培養条件次第で誘導できると考えている。
in vivo でreprogrammingする材料として乳酸菌は使えるのか。また、ヒトの体内でreprogrammingされている可能性はあるのか。
→乳酸菌の抽出液を用いたreprogramming方法の開発は進めている。ヒトの腸内でreprogrammingされているのかは不明。一方で、ライ菌というハンセン病の病原菌はヒト体内で細胞初期化を利用した感染拡大を行うという報告例もある。乳酸菌は病原菌ではないので、積極的に細胞に感染することはないが、低確率では初期化している可能性もある。テラトーマは形成しないので、乳酸菌はin vivo inductionの材料として有望かもしれない。
・テラトーマの形成がみられないが、細胞分化している理由はなぜなのか?
→乳酸菌誘導多能性細胞塊は自己増殖することはしないが、分化後の細胞は分裂・増殖することが可能である。細胞塊の培養条件おいて、増殖因子などを添加することで最適化すれば増殖ステージに変換できるかもしれない。一方で、ヒト多能性細胞は一般的にはマウス多能性細胞より分化能力の狭いprimedステージである。最近、primedステージの細胞を分化能力の高いnaïve ステージに転換する方法が開発された。naïve状態の細胞は増殖性がprimedステージの細胞に比べて低いので、乳酸菌多能性細胞塊の増殖性が低いことにもなにか意味があるかもしれない。
・エピジェネティックな表現型についてはどうなっているのか?
→まだ解析していない。今後進める予定。
・乳酸菌がもつ多能性誘導因子と何か?細胞内因子なのか、それとも分泌物なのか?
→候補の分子はしぼりこんでいる。形成した細胞塊の詳細な分化まで確認していないので、これから解析する。
・方法が非常に簡単だが、なにかコツでもあるのか?
→コツがあるとすれば、HDFと乳酸菌を混ぜるときの順番で、最初に乳酸菌をプレートにスポットし、それからHDF懸濁液を加えてインキュベートするのがコツです。順番を返ると細胞塊はほとんどできません。

以上です。

 

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