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分  野分子細胞制御分野
掲載日2013年 10月 4日
タイトル
AAA 型シャペロン p97 の ATP 依存的往復回転運動を高速原子間力顕微鏡で直接可視化することに成功

Kentaro Noi, Daisuke Yamamoto, Shingo Nishikori, Ken-ichi Arita-Morioka, Takayuki Kato, Toshio Ando, and Teru Ogura. High-Speed Atomic Force Microscopic Observation of ATP-Dependent Rotation of AAA+ Chaperone p97. Structure, in press

 p97 (哺乳類では VCP ,酵母や線虫では CDC48 と呼ばれる) は、代表的な AAA 型分子シャペロンである。 p97 は多様な種で保存され、細胞周期の調節、小胞体関連分解、異常タンパク質の凝集抑制・分解など様々な細胞過程に関与していることが報告されている。ヒトでは VCP の変異が、認知症や筋萎縮性側索硬化症を引き起こすことが報告されている。 p97 は 6 量体のリング構造をとり、分子内に 2 個の AAA 型 ATPase ドメインをもち、それぞれの ATPase ドメインが独立したリングを形成するため、 2 重リング構造をしている。 6 量体の結晶構造はすでに解かれ、クライオ電子顕微鏡法による構造解析も多数報告され、 ATP 加水分解の過程でダイナミックな構造変化を起こすことが示唆され、この構造変化が p97 の機能に重要であると考えられていたが、実際に ATP 加水分解の過程で起こる構造変化を直接観察することは従来の手法では困難で、機能における構造変化の意義もよく分かっていなかった。

今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の野井健太郎研究員(元 G-COE 研究員;現大阪大学基礎工学研究科研究員)らは、金沢大学の安藤敏夫教授らが開発した、 1 画像の取得に要する時間が 100 ミリ秒以下の高速原子間力顕微鏡(高速 AFM )を用いて、試料台上に固定した水溶液中で活性を持つ(生の) p97 の ATP 依存的な構造変化の直接可視化に成功 した。

  高速 AFM を用いた観察により、 p97 は X 線結晶解析の結果と同様にリング状の 6 量体構造を形成し、 ATP 存在下において 時計回りに約 23° 回転し(ここでいう「回転」とは、正確には、 2 つの ATPase リング間のねじれのこと)、また元の位置に戻るという構造変化を繰り返すことを明らかにした(図とムービー)。ヌクレオチド非存在下や ADP 存在下では、このような回転は観察されなかった。さらに変異体を用いた観察により、 p97 の時計回りの回転は、 D2 ATPase ドメインに ATP が結合することにより引き起こされることを明らかにした。すなわち、 D2 ATPase ドメインに ATP が結合して時計回りに回転し、加水分解によっても元に戻るという運動を繰り返す。本研究は、作動中の分子シャペロンのダイナミクスを直接可視化した初めての例で、今後は基質タンパク質への作用についても可視化できる可能性があり、 p97 の機能とその変異によるヒト疾患の発症機序の解明が期待される。また、高速 AFM が多数の生体機能分子の研究に今後大きな貢献をすることが期待できる。 この研究成果は、 Structure 誌 9 月 20 日付電子版に先行掲載された。

本研究の一部は、当研究所が推進する「発生医学の共同研究拠点」制度に基づく福岡大学の山本大輔准教授の採択課題として実施された。また、データ解析の一部は、新学術領域研究<超分子運動マシナリー>に基づく大阪大学の加藤貴之助教との共同研究として行われた。

 

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図. p97 の ATP 依存的回転運動の高速 AFM 観察。(左) ATP 存在下での p97 の回転運動の連続画像。(右)対角線の角度変化。時計回りを+角度で、反時計回りをー角度で表示。

 

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