第541回発生研セミナー
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主要なエピジェネティック修飾の1つであるDNAメチル化は、遺伝子の発現制御やトランスポゾンの転移抑制など、生命の恒常性を維持する上で、さまざまな重要な役割を担っている。私はDNAメチル化異常症、特にDNAメチル化酵素以外の変異が低メチル化を引き起こす「ICF症候群」と「多遺伝子座インプリンティング異常症」の分子病態機序の解明から、DNAメチル化の多様な役割の理解を目指してきた。
ICF症候群は、ペリセントロメア反復領域の低メチル化と当該領域を介した相同染色体及び異染色体の融合が特徴的な疾患である。以前に私たちは、3型、4型、非定型ICF症候群の原因遺伝子としてCDCA7、HELLS、UHRF1を同定し [Thijssen et al. 2015; Unoki et al. 2023]、CDCA7とHELLSが複合体を形成して非相同末端結合型DNA損傷修復に関与する事を明らかにした [Unoki et al. 2019]。またCDCA7/HELLS複合体が、DNMT1/UHRF1維持DNAメチル化複合体の新規合成DNA鎖への集積を促進する事、患者では本機構の破綻がペリセントロメア領域の低メチル化及び異所性の転写を誘導し、Rループ形成を伴うDNA損傷が当該領域に蓄積する事も見出した [Unoki et al. 2020]。当該領域が反復配列から構成されている事から、私は、患者で認められる染色体融合は、相同性の高い反復配列間の誤った組換えの中間産物ではないかと考えてきた。最近、私たちは姉妹染色分体早期分離という異常を示すICF症候群の新規症例を見出した [論文投稿中]。本発見は、CDCA7/HELLS複合体と姉妹染色分体接着因子間に、未知の相互作用が存在する可能性を示唆している。姉妹染色分体の接着は、DNA切断端の動きを制限する事で誤った組換えを抑制する働きがあるため、これらの因子間の相互作用を解明する事で、患者で認められる染色体融合が起こる機序の詳細を解明できるのではないかと考えている。さらに本研究を通して、減数分裂時に起こる相同染色体間の交差型組換えが、体細胞において抑制されている機構にも迫れるのではないかと考えており、本セミナーで討論させて頂きたい。
また私たちは、卵母細胞の細胞骨格を構成する皮質下母性複合体に含まれるNLRP5とOOEPが、UHRF1およびDPPA3と結合し、NLRP5がUHRF1蛋白質を安定化する事を見出した。Nlrp5欠損マウス卵母細胞では、細胞質においても核においても、UHRF1の蛋白質量が低下していた事から、NLRP5によって卵母細胞の細胞質で安定化したUHRF1の一部が核内移行し、着床前胚におけるインプリンティング領域のメチル化維持に寄与する可能性が示された [Maenohara et al. 2017; Unoki et al. 2024]。NLRP5の変異は多遺伝子座インプリンティング異常症を引き起こすため、本発見から、細胞骨格構成因子が核内イベントであるDNAメチル化を制御するという興味深い機構が見えてきた。私たちが以前に行った前核置換実験の結果 [Uemura et al. 2023]は、本疾患の予防法確立につながる可能性があり、それについても本セミナーで討論させて頂きたい。
参考文献
・Thijssen PE, et al. Nat Commun, 6, 7870, 2015
・Maenohara S, *Unoki M, et al. PLoS Genet, 13(10), e1007042, 2017
・*Unoki M, et al. J Clin Invest, 129(1), 78-92, 2019
・Uemura S, et al. Life Sci Alliance, 6(8), e202301904, 2023
・*Unoki M, et al. Hum Mol Genet, 32(9), 1439-1456, 2023
・*Unoki M. et al. Hum Mol Genet, 33(18), 1575-1583, 2024
鵜木元香先生は、令和7年度発生医学研究所共同研究拠点に採択されております。
連絡先 染色体制御分野 石黒 啓一郎 (内線6607)