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分  野分子細胞制御分野
掲載日2010年 3月 9日
タイトル
高速原子間力顕微鏡で細胞骨格タンパク質の動態を捉えた

Shinya Sugimoto, Kunitoshi Yamanaka, Shingo Nishikori, Atsushi Miyagi, Toshio Ando, Teru Ogura. (2010) AAA+ chaperone ClpX regulates dynamics of prokaryotic cytoskeletal protein FtsZ. J. Biol. Chem. 285: 6648-6657.

  細胞骨格タンパク質チューブリンの細菌ホモログである FtsZ は、細胞分裂初期に細胞分裂面に集合し、リング状の高分子複合体( Z リング)を形成する。 Z リングは細胞分裂関連タンパク質の足場となり、細胞分裂において重要な役割を果たす。これまでに FtsZ の重合・脱重合を制御する複数のタンパク質が明らかになっている。AAA+ タンパク質の1つ ClpX もその一つであるが、6量体のリング構造を形成し、基質タンパク質複合体を解離させる分子シャペロンとして機能する。また、プロテアーゼサブユニット ClpP と結合し、 ATP 依存性プロテアーゼ ClpXP を形成する。しかし、 FtsZ の動態の詳細や ClpX および ClpXP の FtsZ への作用についてはほとんど分かっていない。今回、分子細胞制御分野(小椋 光教授)の杉本真也博士(学振 PD )らは、水溶液中で生体高分子の動態をサブ秒スケールで解析できる高速原子間力顕微鏡( AFM )を用いて、 FtsZ ポリマーの構造変化を可視化することに世界で初めて成功した。また、生化学的実験結果と併せ、 ClpX による FtsZ の動態制御の分子機構の一端を明らかにした。

  まず、 GTP 依存的に重合した FtsZ の構造および動態を高速 AFM で 観察したところ、直線状の線維や湾曲した線維、およびそれらが重なりあった太い線維が多数観察された。さらに直線状の線維が時間とともに湾曲し、分断・再結合を繰り返す様子を秒単位の時間分解能で直接可視化できた(図)。次に ClpX が FtsZ のポリマー形成に与える影響を調べたところ、 ClpX は ATP 非依存的に FtsZ の重合を阻害し、 ClpX の N 末端ドメインが FtsZ の認識に重要であることが分かった。一方、 ClpXP が FtsZ を分解する活性は極めて低いことから、分解の促進ではなく重合の阻害により FtsZ の動態を制御していることが示された。さらに、 FtsZ ポリマーの脱重合を ClpX が促進することや、 ClpX を過剰発現させた大腸菌では Z リングの形成が異常になることなども明らかにした。これらの成果は、 Journal of Biological Chemistry 誌( 2 月 26 日号) に発表された。

 

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図: 高速 AFM による FtsZ ポリマーの構造変化の可視化

 

A) GTP 存在下で重合させた FtsZ ポリマーをマイカ基板上に固定し、 1 秒ごとに画像を取得した。 0 , 8 , 12 , 20 , 37 秒後の画像を示した。

B) A で得られた画像をグレースケールで表示し、明確な構造変化が確認できた線維を色付けして強調した。赤の線維は、脱重合した後再重合し、さらに線維束を形成した。一方、黄色の線維は時間と共に湾曲した。スケールバーは 100 nm を示す。
C) FtsZ ポリマーの構造変化のモデル図。 FtsZ は GTP 依存的に線維状のポリマーを形成する。 FtsZ ポリマーは GTP の加水分解に伴い脱重合するが、 FtsZ に結合した GDP が GTP に置き換わることで再重合する。また、 FtsZ ポリマー線維は、湾曲あるいは線維束を形成する性質を示す。

 

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