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分  野分子細胞制御分野
掲載日2012年 6月 1日
タイトル
ミトコンドリア形態は AAA シャペロン Cdc48p/p97 によって制御されるが,そのアダプターである Vms1p は関与しない

Masatoshi Esaki and Teru Ogura. Cdc48p/p97-mediated regulation of mitochondrial morphology is Vms1p-independent. Journal of Structural Biology, in press

 ミトコンドリアは,融合と分裂を繰り返しながら,細胞周期や環境変化に応じてダイナミックにその形態を変化させる。融合・分裂に支障をきたすと ATP の産生ができなくなり,様々な神経変性疾患の原因となることがわかってきた。したがって,正常なミトコンドリアの形態制御は生命にとって必須である。今回,分子細胞制御分野(小椋 光教授)の江崎雅俊助教は,ミトコンドリア形態維持に Cdc48p が関わることを見いだした。

Cdc48p (一般的には p97 ,哺乳類では VCP ,酵母や植物などでは Cdc48p と呼ばれる)はサイトゾルに存在する代表的な AAA シャペロンで,多彩な細胞機能を持ち, DNA 複製や小胞体関連分解,小胞体膜融合,アポトーシスなどで必須の役割を果たす。 Cdc48p 機能を欠損した酵母 変異株を詳細に解析したところ,ミトコンドリアの著しい凝集が観察され(図 A ),また,ミトコンドリア形態に関わる一群のタンパク質が顕著に安定化されていることが分かった。したがって Cdc48p は,形態制御タンパク質の分解反応を促進することによってミトコンドリア形態維持に関与していると考えられる。

Cdc48p には様々なアダプタータンパク質が結合し,それによって多機能性を発揮すると考えられている。最近, Cdc48p のミトコンドリアにおける機能において, Vms1p がアダプター分子として働くことが報告された。しかし Vms1p の欠失株において,ミトコンドリアは正常な形態を示し,また Cdc48p 依存的なミトコンドリア形態異常やタンパク質の安定化も見られた(図 B )。したがって,今回の結果は Vms1p がミトコンドリア形態維持における Cdc48p の主要なアダプター分子ではないことを示している。これらの結果は, Journal of Structural Biology 誌電子版に先行掲載された。

 

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図 ミトコンドリア形態

ミトコンドリアを可視化するため,蛍光タンパク質 GFP または RFP がミトコンドリアに局在する酵母株を作製した。野生型または変異型 Cdc48p を発現する酵母のミトコンドリア形態を蛍光顕微鏡によって観察した。 DIC, 微分干渉顕微鏡像。