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分  野細胞医学分野
掲載日2013年 8月 12日
タイトル
エピジェネティック制御因子 MCAF1/ATF7IPが細胞の増殖・老化に関わることを解明

Sasai N, Saitoh N, Saitoh H, Nakao M (2013) The Transcriptional Cofactor MCAF1/ATF7IP Is Involved in Histone Gene Expression and Cellular Senescence.

PLoS ONE 8(7): e68478. doi:10.1371/journal.pone.0068478

 MCAF1 (MBD1-containing chromatin associated factor 1)は様々な癌細胞/組織で高発現が認められるエピジェネティック制御因子であるが、その生物学的役割については不明な点が多い。今回、細胞医学分野(中尾光善教授)の笹井信広らは、MCAF1が細胞周期遺伝子やヒストンの発現を制御することで細胞の増殖と老化に関与することを見出した。

 ヒト正常細胞株である IMR90において、 MCAF1をsiRNAによりノックダウンすると、細胞は増殖を停止し、老化細胞に特徴的なヘテロクロマチン構造であるSenescence‐associated heterochromatin foci (SAHF) の形成やSA-β-Gal活性の増加といった老化の表現型を示した。MCAF1ノックダウン細胞では、細胞周期関連遺伝子やヒストン遺伝子の発現が著しく減少したことから、MCAF1はこれら遺伝子の発現を活性化することで細胞の増殖を維持していると考えられる。IMR90細胞では MCAF1はPMLボディと呼ばれる核内構造体に局在する。 Rasの強制発現により老化を誘導すると、老化に伴ってMCAF1のPMLボディへの局在がより顕著になった。老化細胞でSUMOがPMLボディに蓄積すること、MCAF1がSUMO結合モチーフ(SIM)を持っていることなどから、SUMO化がMCAF1の局在や活性の制御に関係していると考えられる。これらの結果は、MCAF1が細胞増殖と老化の経路において重要な役割を担っていることを示唆する。本研究成果はPLoS ONE誌( July 30, 2013 )に掲載された。

 

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(左) 増殖細胞ではMCAF1はヒストンや細胞周期遺伝子の発現を活性化し、細胞増殖を維持している。

(中) MCAF1ノックダウン細胞ではヒストンや細胞周期遺伝子の発現が減少し、細胞老化が引き起こされる。

(右) 癌遺伝子の導入により誘導した老化細胞では、MCAF1がPMLボディに移動することでヒストンや細胞周期遺伝子の発現を活性化することができなくなり、細胞老化が引き起こされる。