イベント&セミナー

[発生研セミナー] 8月31日12:00~東大 分生研 岡田由紀先生

2017.08.30 ●セミナー

第313回発生研セミナー

 

 

精子クロマチン構造解析;
その問題点と再評価、そして次世代への影響について

 

岡田 由紀 博士
東京大学 分子細胞生物学研究所 病態発生制御研究分野 准教授

 

日 時: 平成29年8月31日(木)12:00~13:00
場 所: 発生医学研究所 1階カンファレンス室

 

 

エピジェネティクスの根幹を成すヒストンは、細胞内に大量かつ普遍的に存在し、DNAの効率的な折りたたみや遺伝子発現制御などに貢献するが、唯一の例外が雄性生殖細胞である。哺乳類の雄性生殖細胞は減数分裂後にヒストンの大部分が脱落しプロタミンに置換されることで、クロマチンが高度に凝集した精子核を形成する。この変化は精子の妊孕性獲得に必須であり、不完全なヒストンの脱落は不妊の原因となるが、一方で精子クロマチンには、体細胞の1~10%程度のヒストンが残存している。この精子残存ヒストンの生理学的意義は未だ不明であり、さらにそのクロマチン局在も相反する諸説が提唱されるなど、現在混沌とした状況が続いている。
この混乱の原因は、プロタミンを主要構成成分とする精子クロマチンの可溶化が困難な点にある。精子クロマチンはその高次構造により、超音波破砕処理やマイクロコッカルヌクレアーゼなど、通常体細胞で用いられる様々なクロマチン可溶化処理に高耐性である。さらにそこにヒストンが混在することによって生化学的に不均一な構造体となるため、ある特定の可溶化条件では特定のクロマチン構造しか溶出できず、それが種々の生化学的解析において大きなバイアスとなっている。
我々は精子クロマチンから人為的にプロタミンを除去することにより、ゲノムワイドな精子クロマチンの可溶化に成功した。この精子クロマチンを用いた次世代シーケンス解析の結果は従来の諸説をうまく説明し統合できるものであり、精子クロマチン構造の全貌解明に向けた大きな前進と考えている。本セミナーでは、精子クロマチン研究分野の近年の動向と我々の知見を紹介すると共に、現在大きな注目を集めているエピゲノムの経世代効果についても言及したい。

 

連絡先 染色体制御分野 石黒 啓一郎 (内線6607)