演題:幽霊はどこにいる? 脳と怪談の不思議な関係
演者:高知大学医学部脳神経内科 古谷博和
抄録:
幽霊や妖怪譚は世界各国、どの民族にもみられるものですが、これまで民俗学的、心
理学的な方法以外、殆ど科学的な検討がなされていませんでした。今回脳神経内科の
立場から、これらの話に対して神経学的に検討を行ってみました。
対象・方法:このような検討を行う際に問題になるのは、信頼出来る資料をどこまで
集める事ができるかです。そこで対象としては明治時代の対面聞き取り調査として信
頼性の置ける柳田国男の「遠野物語」や民俗学者が収集した主に明治時代以降の出典の
はっきりしている怪談集「日本怪談集」(幽霊編)(妖怪編)を中心にしました。一方パー
キンソン病およびパーキンソン関連疾患の患者さんには睡眠障害に伴う幻覚を体験す
ることが多く、それらは (1) ナルコレプシーで見られる入眠時幻覚に近いもの、(2)
REM睡眠行動異常症や非REM睡眠パラソムニア、(3) 突発性REM睡眠(高速道路催眠現
象)に近いもの、(4) レビー小体型認知症に良く見られる純粋視覚幻覚の4種類です。
今回信頼出来る幽霊・妖怪譚をこれら4種類の分類基準で分類しました。
結果:上記分類基準に基づき「日本怪談集」(幽霊編) (151話)を分類すると、入眠時幻
覚(21%)が最も多く、次いで突発性REM睡眠(高速道路催眠現象) (20%)と純粋視覚幻
覚(20%)がそれに次ぎ、幻聴(9%)、予知夢(9%)なども認めました。一方「日本怪談集」
(妖怪編)の中にREM睡眠行動異常症や非REM睡眠パラソムニアや高次脳機能障害、片頭
痛患者が体験する体感幻覚などを疑わせる話が散見されました。
結論:以上の分析により、所謂幽霊譚の60%以上がパーキンソン関連疾患の患者さん
にしばしば見られる睡眠障害に伴う幻覚に近い事がはっきりとしました。つまり、
パーキンソン関連疾患で幻覚が生じる病態機序に近い機序が正常人におこると、幽霊
譚、妖怪譚として認識される可能性があると考えられます。また高次脳機能障害も幽
霊譚、妖怪譚の原因である可能性も示唆されました。
参考文献
Parkinson Disease 2014, 7(2), 56-58.
In: Encyclopedia of Sleep and Dreams. Vol 2., ABC CLIO. CA, 2012, pp.
708-711.
and their relationship to ghost tales. In Rapid eye movement sleep: New Research (Bando K, Hotate A eds.) Chap. 5, 1st ed. Nova Science Pub, New York, 2012, pp 85-152.