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分  野腎臓発生分野
掲載日2017年6月27日
タイトル
発生期腎臓における非筋肉型ミオシンIIの欠失は尿管・膀胱の接続異常と腎管由来上皮の管腔内突出を引き起こす

Fahim Haque, Yusuke Kaku, Sayoko Fujimura, Tomoko Ohmori, Robert S. Adelstein, and Ryuichi Nishinakamura. Non-muscle Myosin II Deletion in the Developing Kidney Causes Ureter-bladder Misconnection and Apical Extrusion of the Nephric Duct Lineage Epithelia. Developmental Biology 427: 121-130, 2017.

 胎児期腎臓において、腎管及びそこから派生する尿管芽は尿の排出路を形成します。これらの発生に、間葉から分泌されるGdnfの受容体で、ERKを活性化するRetが重要であることはよく知られていますが、この系路以外の関与については不明でした。

 今回、腎臓発生分野(西中村隆一教授)のFahim Haque(医学教育部HIGOプログラム大学院生)らは、新たに細胞内骨格の関与を明らかにしました。非筋肉型ミオシンII をコードする遺伝子Myh9Myh10の両方を腎管・尿管芽の系譜でノックアウトしたマウスを作製したところ、尿管と膀胱の接続が障害され、腎臓と尿管の顕著な拡張が起こりました(図A)。これは胎生中期に尿管芽が基底側から異所性に発芽するためと考えられました(図B)。一方、同じ時期に腎管・尿管芽の上皮は管腔側に向かっても飛び出し、細胞死を起こしていました(図C)。ミオシンはE-カドヘリンによる細胞間接着に重要なため、ミオシンIIの欠失によりその接着が低下し、上皮の本来の形態を維持できなくなることが原因と考えられました。またこれまで、過剰なRetシグナルを介した細胞内シグナルERKの異常な活性化により、尿管芽が異所的に形成されることが知られていましたが、今回、ノックアウトマウスの異常上皮では、Retシグナルとは別の機構でERKの活性化が引き起こされていました。これらのことから、ミオシンIIは腎臓細胞を一層の上皮内に留めて維持するのに必須であることがわかりました。特に細胞が管腔側に飛び出すという症状は稀であり、主に培養細胞で研究されてきたミオシンIIの生体内での役割を明確に示したことになります。本研究は、Developmental Biology 誌427巻1号に掲載されました。

 

 

図 ミオシンII欠失マウスにおける腎臓の異常
A. 変異マウス(右)では出生時に腎臓 (k)と尿管(u)の顕著な拡張が見られる。左は正常マウス。b: 膀胱
B. 胎生11.5日の変異マウスでは、腎管が拡張し(*)、複数の尿管芽(矢尻)が形成されている。
C. 胎生11.5日の変異マウスでは、細胞が上皮層(緑:E-cadherin)から管腔内に飛び出して細胞死が起きている(赤: cleaved caspase-3)。