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分  野筋発生再生分野
掲載日4-Sep-2020
タイトル
損傷した筋線維が筋幹細胞を活性化させることを発見

Tsuchiya Y, Kitajima Y, Masumoto H, Ono Y*. Damaged myofiber-derived metabolic enzymes act as activators of muscle satellite cells. Stem Cell Rep. 2020 in press

 

熊本大学HP

 私たちは肉離れ等で筋肉が損傷しても再生する力を備えています。この再生には筋線維の周囲に存在するサテライト細胞と呼ばれる筋幹細胞が欠かせません。サテライト細胞は通常眠った状態(休止期)で存在していますが,筋がダメージを受けて損傷すると速やかに,目覚め(活性化),増殖を繰り返し,筋分化することで,損傷した筋線維を再生します。つまり,筋線維が損傷して再生するまでには,サテライト細胞の活性化,増殖,筋分化という3つのステップが必要になります。しかし,最初のステップである活性化はどのように起こるのか,そのメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

 

 今回,筋発生再生分野の土屋吉史 研究員(日本学術振興会PD特別研究員)は,小野悠介 独立准教授とともに,培養系での筋損傷モデルを構築し,損傷した筋線維から漏出する成分がサテライト細胞を活性化させることを見出しました。本研究グループはこのような漏出成分を「損傷筋線維由来因子(DMDFs:Damaged myofiber-derived factors)」と命名し,DMDFsの質量分析解析を行い,サテライト細胞を活性化させるタンパク質の同定を試みました。その結果,DMDFsとして同定された代謝酵素は,休止期のサテライト細胞を速やかに活性化させ,筋損傷からの再生を加速させる働きがあることを見出しました。本研究から,損傷した筋肉そのものがサテライト細胞を活性化させるといった,極めて合理的で効率的な再生メカニズムが存在することが明らかになりました。DMDFsは多種多様な機能があると予想されるため,今後,DMDFsのさらなる機能解明を進め,筋疾患の病態解明や創薬開発へ展開していきます。

 

 本研究成果は,国際幹細胞学会の学会誌Stem Cell Reportsのオンライン版に令和2年9月4日 (日本時間) に掲載されました。なお本研究成果は,長崎大学の増本博司 講師との共同研究によるものです。

 

図.DMDFsによる新たな筋損傷-再生モデル

休止期のサテライト細胞は,筋損傷部位から漏出する因子(DMDFs)により速やかに活性化され,増殖の準備段階であるG1期に入る。続いて損傷部位に浸潤する免疫細胞や間質細胞等が産生する増殖因子等の刺激により,サテライト細胞はS期に入り増殖する。一方,増殖因子刺激を受け取らなかった細胞は再び休止期に戻る。DMDFsはサテライト細胞を活性化させることで,傷害後,迅速な筋再生を可能にするメカニズムになると考えられる。