21世紀COEプログラム
細胞系譜制御研究教育ユニットの構築
事業の概要

本拠点は、教官・ポスドク・大学院生が高い学際性と流動性のもとで相乗的に研究できる環境を創り、器官形成や個体発生の根幹的メカニズムともいえる細胞系譜制御機構に取り組むことで、生命科学領域の人材育成と研究推進の双方を図るものである。

 

事業の目指すもの

 本拠点は発生医学研究センターと関連部局群の教官が、高い学際性と流動性を活かしながら先導的研究教育組織の構築を目指す。各教官が連携してポスドクや大学院生とともに研究するリエゾンラボを運営することで、人材育成と一体化した研究拠点形成を図る。研究対象とする細胞系譜制御は器官形成や個体発生の根幹をなすものであり、近年の幹細胞制御に対する関心の高まりとともに精力的に研究されている重要課題であるが、未だ基本メカニズムの解明には至っていない。本拠点では、細胞系譜制御の研究を通じて器官形成メカニズムの普遍的概念を提示し得るブレークスルーを目指す。その成果は学問的なインパクトに加えて、病因解明や治療法開発の基盤情報となり得るなど社会的波及効果も大きいと期待される。本拠点はこのような背景により機動性ある触媒的役割をもつ研究教育ユニットを構築する。

 

研究計画

生体内の種々の組織や器官が形成される際に細胞系譜を制御するプログラムは相互に働きかけを行い、時には段階的に可塑的な遷移状態を経ながら進行する。興味深いことに器官形成途上では異なった細胞系譜同士は相互作用しながら一見排他的に分岐して行く一方で、細胞分化の進行は可塑的な遷移状態を経ながら進むと捉えられ、排他性と可塑性という相矛盾する状態がバランスをとりながら系譜制御プログラムが実行されるという複雑性がある。最近では、成体においても可塑的な遷移段階に留まった未熟細胞と考えられる間葉系幹細胞が見いだされ、その系譜制御解析も緒についたばかりである。この拠点ではこのような観点から細胞系譜制御プログラムの相互連関の解明によって器官形成の基本メカニズムを理解するための研究を計画する。

 

 本拠点の研究は表紙記載の分担内容による実施を計画している。これまでに本拠点構成員が準備研究で手掛けてきた器官系たとえば血管系、血球系、神経系、胆肝膵系をモデルとして研究を推進するが、まず基本的に考慮しなければならないのは、幹細胞や分化途上の遷移状態にある細胞あるいは多種多様に分化した細胞のいずれもが基本的に同一のゲノムを有している点である。このことから細胞系譜制御プログラムは遺伝情報を選択的に活用することと表裏一体であると言える。そこで、転写調節因子、DNAメチル化、クロマチン形成、蛋白質修飾など器官形成の進行に伴って変化する遺伝情報選択活用のメカニズムを解析する。その際、各細胞系譜特異的に機能する転写因子と転写共役因子間の相互作用や、細胞系譜の進行状況とクロマチン動態の連関などを念頭に進める。さらに考慮すべきこととして器官発生は胚胎内の位置と無縁に理解することはできない点がある。準備研究により器官形成の進行に伴って興味深い発現パターンを示し器官発生時のローカルオーガナイザーと推測される遺伝子群を同定しているので、それらを手がかりに系譜制御プログラムのより上位で作用すると思われるメカニズムを探る。

 

 内胚葉に由来する肝臓原基(肝芽)は、肝臓、胆嚢、膵臓の各構成細胞へと分化する能力を持った、可塑的状態にある遷移段階の幹細胞的細胞集団と考えられる。その細胞集団はその後、隣接する間充織細胞や血管内皮細胞と相互作用するが、その際に発現プロファイルが変化する遺伝子群の解析を進めることにより、細胞系譜制御プログラムの相互作用と可塑性の実態を明らかにする。またこのように多細胞からなる器官の形成には蛋白-蛋白間認識に基づく細胞認識と移動が重要であるため、それらの分子基盤を明らかにする。中胚葉から胚型赤血球系譜と血管内皮細胞系譜は分岐するが、必ずしも血球系の系譜と血管系の系譜が絶対排他的ではなく、胎生がさらに進むと血管内皮細胞系譜の中で血球細胞系譜の発生プログラムが再び開始される。また血管の形成は血管内皮細胞が内胚葉、間葉系細胞、血管平滑筋細胞と順次相互に作用しながら進行する。すでに準備研究で得ている血管系と血球系細胞の同定法や培養法を用いて、可塑的な分化の遷移状態を含めて細胞系譜制御プログラムを解析する。神経外胚葉に由来する神経幹細胞のその後の分化は細胞外来性のシグナルに加えクロマチン動態で制御されることを準備研究で示した。胎生期マウス中枢神経系幹細胞培養系を用いて細胞系譜制御に関わる転写因子群と転写共役因子の相互作用ならびにクロマチンリモデリングの関連を解析する。また分化途上の各段階で発現プロファイルが異なる遺伝子の探索を行うことで、これらの幹細胞の関わる細胞系譜制御プログラムを探る。

 

 マウスES細胞は細胞分化過程を試験管内で再現するモデルであり、細胞系譜の決定、可塑性、排他性等の機構について段階を追って解析する良いシステムと言える。準備研究で確立しているマウスES細胞からの血管・血球系細胞分化、中枢神経系細胞分化、肝胆膵等内胚葉由来細胞分化の各モデルシステムを用いて、細胞系譜の遷移期と運命付け決定期の細胞間相互作用や遺伝子発現プロファイルを調べることで系譜制御プログラムの連携と可塑性を明らかにする。これらの研究を通じて細胞系譜プログラムの解明を図る。