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分  野ゲノム神経学分野
掲載日21-Oct-2024
タイトル
パーキンソン病などのシヌクレイノパチーにおける病態機序を解明
ーG4を標的に神経変性を「未病」で防ぐー

論文名:RNA G-quadruplexes form scaffolds that promote neuropathological α-synuclein aggregation.

著者:Kazuya Matsuo, Sefan Asamitsu, Kohei Maeda, Hiroyoshi Suzuki, Kosuke Kawakubo, Ginji Komiya, Kenta Kudo, Yusuke Sakai, Karin Hori, Susumu Ikenoshita, Shingo Usuki, Shiori Funahashi, Hideki Oizumi, Atsushi Takeda, Yasushi Kawata, Tomohiro Mizobata, Norifumi Shioda* and Yasushi Yabuki*

 (* Co-corresponding authors)

掲載誌:Cell

doi:10.1016/j.cell.2024.09.037

URL:https://doi.org/10.1016/j.cell.2024.09.037

熊本大学HP

日本経済新聞

ポイント

 

概要説明

 熊本大学発生医学研究所の塩田倫史教授、矢吹悌准教授および松尾和哉助教らの研究グループは、シヌクレイノパチーの発症機序を新たに解明しました。

 シヌクレイノパチーは、パーキンソン病、レビー小体型認知症を含む進行性の神経変性疾患の総称です。シヌクレイノパチーでは、「αシヌクレイン」と呼ばれるタンパク質が細胞内に凝集することで神経機能の障害を引き起こしますが、その凝集機序は不明でした。本研究グループは、RNA高次構造のひとつである「グアニン四重鎖(G4)」の集積がαシヌクレイン凝集の足場となることを発見しました。パーキンソン病患者の剖検脳を解析したところ、αシヌクレイン凝集体の約90%にG4が集積していました。さらに、本研究グループが見出したG4の集積を抑制する薬剤である「5-アミノレブリン酸」(参考文献1)をシヌクレイノパチーモデルマウスに経口投与したところ、αシヌクレインの凝集が阻害され、進行性の運動機能の低下が予防できました。

 これまで本研究グループは、遺伝性の神経変性疾患においてもG4の集積が神経機能の障害を引き起こすことを報告しています(参考文献2)。また、アルツハイマー病に深く関わる「タウ」と呼ばれるタンパク質もG4により凝集することも明らかにしています(参考文献3)。すなわち、「G4の集積」を抑制することは、神経変性疾患全般の「未病」に向けた創薬に繋がります。

 本研究成果は、文部科学省科学研究費助成事業(課題番号:JP21K20723, JP22J00687, JP21K06579, JP23H03851, JP21H00207, JP20K21400, JP22K19297, JP23H00373)、日本医療研究開発機構(AMED)革新的先端研究開発支援事業「RNA相転移によるプリオン性タンパク質のプロテオスタシス破綻機構」(課題番号:JP23gm6410021h0003)、脳とこころの研究推進プログラム「RNA相転移によるシヌクレイノパチー発症機序の解明」(課題番号:JP23wm0525023h0003)、JST創発的研究支援事業「グアニン四重鎖によるプリオノイド・イノベーション」(JPMJFR2043)、熊本大学発生医学研究所共同研究拠点、熊本大学発生医学研究所高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業、文部科学省共同利用・共同研究システム形成事業「学際領域展開ハブ形成プログラム」などの支援を受けて、科学雑誌「セル(Cell)オンライン版に米国(ET)時間の令和6年10月18日午前11時(日本時間10月19日午前0時)に掲載されました。

 

説明

[背景]
 社会の高齢化に伴い神経変性疾患の患者は急速に増加しており、その対策は喫緊の課題となっています。シヌクレイノパチー(パーキンソン病、レビー小体型認知症、多系統萎縮症など)やタウオパチー(アルツハイマー病など)は、脳内に異常なタンパク質が凝集・蓄積・細胞間伝播することで神経細胞の機能低下を引き起こし、認知障害や運動障害などの症状を呈します。

 シヌクレイノパチーでは、「αシヌクレイン」と呼ばれるタンパク質が細胞内に凝集し、神経障害を引き起こします。しかしながら、「通常は凝集しないαシヌクレインが、どのように細胞内で凝集するのか」は未解明でした。

 

[研究の内容]
 本研究グループは、αシヌクレインを細胞内で凝集する分子の同定に成功しました。それは、「G4」と呼ばれるRNA高次構造でした。G4は、細胞にストレスが付加されると増加・集積しますが(参考文献4)、「G4の集積」はαシヌクレインを凝集させる足場となることがわかりました。実際、パーキンソン病患者の剖検脳において、αシヌクレイン凝集体の約90%にG4が集積していました。また、G4を人為的にマウス脳内の神経細胞に集積させたところ、細胞内のαシヌクレインがG4の集積を足場として凝集し、神経変性と運動機能障害を引き起こしました。さらに、本研究グループが見出したG4の集積を抑制する薬剤である「5-アミノレブリン酸」(参考文献1)をシヌクレイノパチーモデルマウスに経口投与したところ、αシヌクレインの凝集が阻害され、進行性の運動機能の低下が予防できました。

 
[成果・展開]
 今回、αシヌクレインを細胞内で凝集する分子が「G4」であることを初めて同定し、「G4の集積抑制」によってシヌクレイノパチーの発症を予防できることを証明しました。これまで本研究グループは、遺伝性の神経変性疾患においてもG4の集積が神経変性を引き起こすことを報告しています(参考文献2)。また、アルツハイマー病に深く関わる「タウ」と呼ばれるタンパク質もG4により凝集することも明らかにしています(参考文献3)。すなわち、「G4の集積」を抑制することは、神経変性疾患全般の「未病」に向けた創薬に繋がります。

 

[用語解説]
*グアニン四重鎖(G4): DNAおよびRNAの高次構造の一種。グアニンに富む核酸配列で形成される。4つのグアニンが四量体を作った面(G-カルテット)が2面以上重なった構造体である(下図)。本研究では、RNAで形成されるG4の集積がαシヌクレイン凝集の足場となることを示した

 

参考文献1:Shioda et al. Nature Medicine 24, 802-813. (2018)
参考文献2:Asamitsu et al. Science Advances 7, eabd9440. (2021)
参考文献3:Yabuki et al. bioRχiv doi: https://doi.org/10.1101/2024.03.01.582861
参考文献4:Asamitsu et al. Science Advances 9, eade2035. (2023)

 

 

 

[図説]
神経変性の引き金となるのは、細胞ストレスによる細胞内カルシウムイオン(Ca2+)の濃度上昇に伴うG4の集積である。さらに、αシヌクレインはG4と直接結合し凝集性のある形状に構造変換する。G4の集積を足場とし、αシヌクレインが凝集体を形成する。したがって、G4の集積を抑制することはαシヌクレインの凝集抑制に繋がり、神経機能の低下を予防できる。