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分  野腎臓発生分野
掲載日2013年 8月 28日
タイトル
男女の違いを作る新たな仕組みを解明

Homeoproteins Six1 and Six4 regulate male sex determination and mouse gonadal development
Yuka Fujimoto, * Satomi S. Tanaka , Yasuka L. Yamaguchi, Hiroki Kobayashi, Shunsuke Kuroki, Makoto Tachibana, Mai Shinomura, Yoshiakira Kanai, Ken-ichirou Morohashi, Kiyoshi Kawakami *Ryuichi Nishinakamura( * corresponding authors ) .

Developmental Cell , 26, 416?430, 2013

.( http://dx.doi.org/10.1016/j.devcel.2013.06.018)

 腎臓発生分野(西中村隆一教授)の藤本由佳(博士課程学生)・田中 聡助教らの研究グループは、哺乳類の雌雄の性を決定する新たな分子機構の一端を明らかにしました。 

  哺乳動物の性は、性染色体 XとYの組合せ(雄はXY、雌はXX)により、受精した卵の段階から遺伝学的に決定されています。しかし、雌と雄の性の差が初めて生じるのは、妊娠中期頃の胎仔の体の中の生殖腺原基という組織です。この生殖腺原基が、雄では精巣、雌では卵巣となることにより、体全体が雄 または雌へと形作られていきます。では、生殖腺原基が精巣になるか卵巣になるかはどのように決まるのでしょうか?これは、雄(XY)にあるが、雌(XX)にはないY染色体上の性決定遺伝子 Sry が生殖巣原基で発現することにより決まります。しかし、この雌雄の違いを生み出す”もと”となる組織である生殖巣原基を作り出す仕組みや、雄になる最初の仕組みである性決定遺伝子 Sry を働かせる機構については、十分には明らかにされていませんでした。今回藤本らは、本来は雄(XY)なのに、雌へと性転換してしまう遺伝子改変マウスの研究により、この雌雄の違いを生み出す仕組みを明らかにしました。

  遺伝子発現を調節する転写因子である Six1とSix4の両方を欠損させたマウス胚では、雌雄ともに、小さな生殖腺しか作られませんでした。これは、Six1/Six4が、生殖巣原基のもととなる細胞を作り出すのに重要な遺伝子 Ad4BP (別名: Nr5a1/Sf1 )の発現をコントロールしているためでした(図)。さらにこの変異マウスでは、遺伝学的には雄(XY)にもかかわらず、生殖巣原基は精巣でなく卵巣へと性転換していました。そこで、この変異マウス胚で性決定遺伝子 Sry の発現を調べたところ、予想通りに大きく減少していました。これは、Six1/Six4が、生殖巣原基での Sry の発現をコントロールしている遺伝子 Fog2 (別名: Zfpm2 ) の発現を、さらにその上流でコントロールしているためでした(図)。これらのことから、Six1/Six4が、2つの独立した経路によって、生殖巣原基を作り出すこと(生殖腺の大きさの決定)と、雄になる最初の仕組み(性の決定)をコントロールしていることが明らかとなりました(図)。性分化の研究分野では、1990年代の性決定遺伝子 Sry の発見以降、その遺伝子を働かせる機構の解明が続けられてきました。今回、Six1/Six4が、 Sry の発現する”場(生殖腺)”の形成とさらにその発現誘導に関わることが明らかとなり、この機構解明に大きな進展をもたらしました。

SIX1 SIX4 遺伝子は、生殖腺の発育のみならず、目や腎臓の形成にも必要で、その変異はこれらの形成不全を引き起こし、ヒトの様々な遺伝病の原因遺伝子としても知られています。本研究で得られた新たな知見は、これらの疾患の治療法の確立にも大きく貢献することが期待されます。また、生殖腺は男女の性の違いを生み出す”もと”となる組織であると共に、次世代を生み出す”もと”である生殖細胞(精子と卵子)を育てる組織でもあります。本研究で得られた生殖腺形成・分化に関する知見は、次世代へと生命を紡ぐ仕組みを解き明かすことにも繋がります。

  本研究成果は、 Developmental Cell 誌 2013 年8月26日号に掲載されました。

 

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図: Six1/Six4 は、生殖巣原基を作り出すこと(大きさの決定)と、雄になる最初の仕組み(性の決定)の2つを独立した経路によってコントロールしている。 

 

Six1/Six4 は、生殖巣原基のもととなる細胞を作り出すのに重要な遺伝子 Ad4BP (別名 :Nr5a1/Sf1 ) の発現を活性化し、未分化生殖腺の形成をコントロールしている(大きさの決定)。一方、それとは独立した経路で、 Six1/Six4 は、 Fog2 (別名 : Zfpm2 ) の発現を活性化し、そしてその Fog2 が Sry の発現を活性化して、精巣への分化を誘導している(性の決定)。