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分  野多能性幹細胞分野
掲載日6-Oct-2026
タイトル
タンパク質分解が哺乳類の発生速度を左右する仕組みを解明

論文名:Proteasome-dependent protein degradation shapes developmental tempo in mouse and human neural progenitors

 

著者:Shota Nakanoh, Despina Stamataki, Lorena Garcia-Perez, Chiara Azzi, Hayley L Carr, Alexandra Pokhilko, Loukik Doshi, Giulia L M Boezio, Hilary Knowles, Adriana Lamas Bancalari, Manuela Melchionda, Lu Yu, Steven Howell, Mark Skehel, David Oxley, Simon Andrews, James Briscoe, Teresa Rayon

 

掲載誌:Developmental Cell 61(9):1867-1882

doi:10.1016/j.devcel.2026.07.014

URL:https://www.cell.com/developmental-cell/fulltext/S1534-5807(26)00283-2

(ポイント)
・マウスとヒトの神経前駆細胞を比較し、マウスではタンパク質の合成と分解が速く、ヒトではタンパク質の寿命が長いことを明らかにした。
・プロテアソーム活性の操作により、神経細胞への分化速度が変化することを実証した。
・タンパク質分解速度の違いが、哺乳類の発生速度の種差を生み出す可能性を明らかにした。

 

(概要説明)
 熊本大学発生医学研究所の中能祥太助教は、英国バブラハム研究所のTeresa Rayon博士、同国クリック研究所のJames Briscoe博士らとの共同研究において、マウスとヒトの神経分化の速度とタンパク質の合成・分解速度に関連があることや、マウスではヒトに比べてプロテアソームの活性と量が高いことを発見しました。さらに、プロテアソーム活性を操作すると神経分化の速度が変化することを示しました。本研究は、種に固有の発生時間を調節する仕組みを理解する糸口を示すと共に、細胞の分化速度を人為的に操作する足がかりとなるものです。本研究成果は、2026年9月9日に科学雑誌「Developmental Cell」に掲載されました。

 

(説明)
[背景]
 哺乳類の胚発生は、関与する遺伝子や分子機構は共通しているにもかかわらず、種によって進行する速度が大きく異なります。例えば、マウスの胚発生はヒトよりも速く進行し、神経系の形成にも同様の時間的な違いが見られます。しかし、そのメカニズムは十分に解明されていませんでした。

 

[研究の内容]
 本研究では、マウスとヒトの神経前駆細胞を用い、質量分析を用いたdynamic SILAC法により、タンパク質の分解速度を網羅的に比較しました。また、基質分解法やネイティブ・ウエスタンブロットを用いて、細胞内のプロテアソームを調べました。さらに、プロテアソームの活性を薬理学的・遺伝学的に抑制・亢進させる実験や、神経分化を制御する転写因子の分解速度を操作する実験を行い、タンパク質分解が遺伝子発現と神経分化の時間に与える影響を検証しました。

 

[成果]
 マウスの神経前駆細胞では、ヒトに比べてタンパク質の合成と分解が速く、タンパク質の入れ替わりが活発であることが分かりました。特に、ヒトではタンパク質の寿命が長く、プロテアソームの量と活性が低いことが明らかになりました。また、マウス神経前駆細胞でプロテアソーム活性を阻害すると神経分化が遅延し、反対にヒト神経前駆細胞で活性を高めると神経細胞への分化が促進されました。これらの結果から、プロテアソームによるタンパク質分解が遺伝子発現のタイミングを調節し、神経発生の速度に影響を与えることが明らかになりました。

 

[展開]
 本研究は、タンパク質の分解速度が発生の時間を調節するという視点を掘り下げるものです。今後、プロテアソーム活性を制御する分子機構や、個々のタンパク質の安定性が細胞の運命決定に与える影響を明らかにすることで、哺乳類の発生速度の種差や進化的な多様性の理解が進むと期待されます。また、タンパク質分解を介した細胞機能の制御は、幹細胞の分化過程を理解し、その速度を調節する技術の開発にもつながる可能性があります。

 

[用語解説]
・プロテアソーム:細胞内で不要になったタンパク質や、品質の悪いタンパク質を分解する酵素複合体。
・神経前駆細胞: 神経細胞やその支持細胞など、神経系を構成する細胞へと分化する能力を持つ未成熟な細胞。
・dynamic SILAC: 安定同位体で標識したアミノ酸を細胞に取り込ませ、タンパク質の入れ替わりを時間経過に沿って追跡する方法。
・基質分解法:プロテアソームに特異的な人工基質を用い、細胞懸濁液に含まれるプロテアソームの分解活性を調べる実験。
・ネイティブ・ウエスタンブロット:タンパク質を複合体としての構造を保った状態で電気泳動し、その量や構成を調べる方法。

 

 

 

図 本研究の土台となっている培養細胞の神経分化システムに、遺伝子強制発現を組み合わせた実験。前駆細胞(progenitors)から神経細胞(neurons)に分化が進行する際に、PSMB5という遺伝子を人為的に発現させたところ、前駆細胞が減り神経細胞が増えた。RA+SAG: 神経化培地、dox:強制発現を誘導する薬剤。グラフ中の数値は、統計的有意性を示すp値。