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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2013年 6月 3日
タイトル
細胞を壊すことなく内胚葉分化効率を測定する方法の開発

Hidefumi Iwashita, Nobuaki Shiraki, Daisuke Sakano, Takashi Ikegami, Masanobu Shiga, Kazuhiko Kume, Shoen Kume* (* corresponding author). Secreted Cerberus1 as a marker for quantification of definitive endoderm differentiation of the pluripotent stem cells . PLoS ONE8(5): e64291, 2013.

 ES・iPS細胞は、あらゆる細胞に分化できる能力をもつため再生医療への実用化に注目されている。なかでも内胚葉は、膵臓や肝臓といったヒトにとって重要な機能をもつ臓器へと分化する分岐点に位置するため、効率的な分化誘導、分化細胞の品質管理が不可欠である。分化度の確認は、指標となるmRNAや細胞内タンパク質の発現量を一定期間ごとに測定し、それらの発現量の変化で判断するため一部の培養細胞を破壊する必要があった。

 今回、株式会社同仁化学研究所の岩下秀文研究員、多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)の白木伸明助教らは、培養上清中に分泌されたCerberus 1タンパク質を測定することで細胞を破壊することなく内胚葉細胞の分化度を測定する方法を構築した。マウスES細胞を内胚葉へ分化した場合、Cerberus 1は内胚葉マーカーとしてよく用いられるSox17 (Sry-box containing gene 17)と遺伝子発現レベルにてほぼ同時期に内胚葉特異的に発現し、培養上清中に分泌されたCerberus 1量も分化日数に比例して増加した。これらを発現する細胞の割合と内胚葉細胞表面マーカーであるCxcr4 (C-X-C chemokine receptor type 4)、ECD (E-Cadherin)二重陽性細胞の割合との相関が確認された。またヒトiPS細胞においても、培養上清中のCerberus 1分泌量は内胚葉マーカーであるSox17、Foxa2 (Forkhead box protein A2)二重陽性細胞数と相関することが明らかとなった(Fig. 1)。本研究で開発したCerberus 1 ELISA(抗原抗体反応を利用した高感度抗原検出定量法)を用いることで、iPS細胞を継続培養しながら内胚葉分化効率を簡便に測定することが可能となり、iPS細胞分化の品質管理への利用が期待される。本研究成果は 2013 年5月22日に PLoS One 誌電子版に掲載された。

 

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Fig. 1  ( A )分化日数毎の内胚葉の割合(%)、( B )分化日数毎の培養上清中の Cerberus 1 量( ng/ml )

※内胚葉細胞: SOX17 、 FOXA2 二重陽性細胞