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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2012年 1月 23日
タイトル
マウス膵臓前駆細胞の起源 ― 膵臓と両側腸管の位置関係が左右から前後へ転換する

Miki, R., Yoshida, T., Murata, K., Oki, M., Kume K. and Kume, S. Fate maps of the ventral and dorsal pancreatic progenitor cells in early somite stage mouse embryos. Mech. Dev. in press.10.1016/j.mod.2011.12.004

多能性幹細胞分野(粂 昭苑教授)では、これまで ES (embryonic stem ;胚性幹 ) 細胞から膵臓前駆細胞( Pancreatic and duodenal homeobox gene 1 ( Pdx1 )を発現する細胞)を効率よく分化誘導する方法の開発を行ってきた( Stem Cells, 2008 )。膵臓前駆細胞の起源を知ることは、膵臓の発生分化の手がかりを得て、さらに効率的な ES 細胞を用いた分化誘導方法を開発するために重要である。
 今回、多能性幹細胞分野の三木 梨可博士( GCOE リサーチ・アソシエイト)らは、初期胚において膵臓前駆細胞がどこに存在しているのかを明らかにする目的で、マウス胚を用いて Pdx1 陽性細胞の起源について解析を行った。これまでに、発生中期における Pdx1 発現は腹側膵芽、背側膵芽で報告されていたが、今回は DiI 蛍光色素溶液を用いた細胞標識法により、発生初期において内胚葉の前腸門に発現する Pdx1 陽性細胞が将来の腹側膵臓(ピンク)に分化する予定膵臓細胞であることを明らかにした(図)。また腹側膵芽予定領域の右側領域(水色)は、腹側膵芽より後方の腸管予定領域であるが、左側領域(青)は腹側膵芽より前方の腸管予定領域であり、前腸門の左―右が前―後になることがわかった(図)。すなわち、左右非対称性が前後非対称性に変換された。この変換は前腸門に Pdx1 遺伝子が発現されるようになってから見られる現象であった。さらに脊索上の内胚葉(灰色)に背側膵芽予定領域および十二指腸予定領域が存在しており、細胞運命決定は、背側が腹側膵芽より遅いことがわかった(図)。このように腹側膵芽と背側膵芽が異なる内胚葉の場所から発生することが初めて明らかになった。本研究は、腹側膵芽と背側膵芽の細胞運命決定シグナルが別々の場所から送られることを示唆しており、今後の膵芽形成の分子メカニズムを解明するための手がかりになる。この研究成果は Mechanisms of Development 誌の 1 月 6 日付けの電子版で先行発表された。

 

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図 . 腹側および背側膵芽の細胞運命地図
腹側膵芽予定領域はピンクの部分に存在する。背側膵芽予定領域は灰色の部分に存在する。青(左)と水色(右)の部分が、 9.5 日胚の前方腸管と後方腸管の予定領域である。