生体分子の示す自然知能に啓発されたデータサイエンス
理化学研究所 特別招聘研究員 中村 振一郎
Shinichiro Nakamura
RIKEN Cluster for Science Technology and Innovation Hub, Nakamura Laboratory, 2-1 Hirosawa, Wako 351-0198 Saitama (Japan), snakamura@riken.jp
サイエンスを如何にしたら価値に転換できるか、これを問いつつ進めている研究を紹介します。発表者は全く意図したことではなかったのですが、産官学すべてにおける研究開発を経験してきました。それゆえ、現在の日本の産業界ですぐに活用するのは困難かもしれない、しかし長期的には「必ず我が国の産業に資する研究成果をお届けしたい」と願って題材を選んでいます。
天然光合成は日々いとも簡単にPSIIタンパクのMn錯体で水の電気分解を行い(1)、RUBISCOというタンパク質はCO2を原料にして食料・デンプンを合成しています。この偉業に止まらずUV光にも劣化しない天然色素ポリフェラ334(2)、ハスの葉のフラクタル表面(3)、、、枚挙に暇がないほど自然界には約35億年の化学進化の到達物に満ちています。これらを私たちは自然知能と呼んでその物理化学的詳細メカニズムを量子化学計算、第一原理計算、分子動力学計算により解明を試みてきました。これらの勘所をご紹介します。
人間も自然の一部です。そうであるならば、躍進の目覚ましい現在の人工知能も自然知能のひとつのフェノタイプであるかもしれません。私たちはそう考えてキーノートを物理化学・分子科学に保持しながら幾つかのデータサイエンスを実践してきました。発端は分子動力学計算の数値データを音に変換して解釈した「分子の音」という試みです(4)。つづいて民間企業のニーズに応えて行ったデータサイエンスから(公表できる部分を)ご紹介します。
最後に機械学習の実践例として,有機合成の名人・達人の域に機械学習が到達できるかどうか、果敢に試みたVariational Autoencodingによる機能性分子の探索・設計の実例を示します。最も新しい結果を予告編の趣で示して終わります。つまり量子コンピュータが行うようなことを有機分子性結晶設計の光応答を用いて試したSchubert Calculusについても触れます。
参考文献