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分  野多能性幹細胞分野
掲載日2012年 3月 29日
タイトル
カルシニューリンはショウジョウバエの 睡眠および記憶を制御する

Jun Tomita, Madoka Mitsuyoshi, Taro Ueno, Yoshinori Aso, Hiromu Tanimoto, Yasuhiro Nakai, Toshiro Aigaki, Shoen Kume and Kazuhiko Kume. (2011) Pan-Neuronal Knockdown of Calcineurin Reduces Sleep in the Fruit Fly, Drosophila melanogaster . J. Neurosci. 31, 13137-13146.

睡眠は、毎日繰り返される身近な現象であるが、その制御機構や生理的意義については、未知の部分が多く残されている。多能性幹細胞分野(粂 和彦准教授)では、これらの睡眠の謎に迫るため、ショウジョウバエをモデル生物として新規睡眠関連遺伝子の探索を進めている。 今回、同分野の冨田 淳博士(特定事業研究員)および光吉 まどか(修士課程学生)らは、 Ca 2+ /カルモジュリン依存性 タンパク質脱リン酸化酵素であるカルシニューリンがショウジョウバエの睡眠制御に関わることを明らかにした。
 近年の哺乳類やショウジョウバエを用いた研究から、覚醒時に形成されたシナプスは睡眠中に最適化され、その結果として記憶が固定されることが示唆されている。カルシニューリンは、脱リン酸化酵素活性を持つ触媒サブユニット Aと Ca 2+ 結合部位を持つ調節サブユニット Bからなるへテロ二量体タンパク質であり、 哺乳類の脳においてシナプス可塑性の制御に関与し、学習・記憶に重要な分子である 。ショウジョウバエでは、 5分間以上の不動状態を睡眠と定義しているが、 Aサブユニットをコードする CanA – 14F 遺伝子を、 RNAi法により 全神経でノックダウンすると、睡眠量がコントロールの約 1/2に減少した(図)。また、Bサブユニットのノックダウンでも同様に睡眠量の減少がみられた。一方、恒常活性化型CanA-14Fタンパク質を成虫期にだけ全神経で過剰発現すると、睡眠量が顕著に増加したことから、成虫の神経におけるカルシニューリンシグナルが睡眠を制御することが示された。次に、匂い連合学習課題における学習・記憶への影響を調べた。 CanA – 14F 遺伝子ノックダウンにより睡眠量が減少したショウジョウバエでは、学習に異常はみられなかったが、記憶の保持が障害されたことから、 睡眠 と記憶との関連を分子レベルで解析できる可能性が示された。カルシニューリンは脳のほとんど全ての細胞で発現していることから、どの神経細胞で、どのような分子を脱リン酸化することで睡眠を制御するのかを明らかにすることが今後の課題である。以上の研究成果は、 Journal of Neuroscience誌(2011年9月14日号)に掲載された。

 

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図 . カルシニューリン CanA – 14F ノックダウンによる睡眠量の減少

(A)コントロールおよび全神経で CanA – 14F をノックダウンしたショウジョウバエの恒暗条件下での3日間の歩行活動パターン。縦軸は5分間あたりの活動量。代表的な3個体のデータを示す。(B)全神経で CanA – 14F をノックダウンしたショウジョウバエの睡眠の割合をコントロールと比較した。