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分  野腎臓発生分野
掲載日2013年 12月 13日
タイトル
3次元腎臓組織の試験管内作製に成功

Atsuhiro Taguchi, Yusuke Kaku, Tomoko Ohmori, Sazia Sharmin, Minetaro Ogawa, Hiroshi Sasaki, and Ryuichi Nishinakamura

Redefining the in vivo origin of metanephric nephron progenitors enables generation of complex kidney structures from pluripotent stem cells (2013) Cell Stem Cell Dec 12. Epub ahead of print

 腎臓は血液を糸球体でろ過し、さらにそこから尿細管 で必要なものを再吸収することで尿を産生し、体内の体液バランスの維持や血圧調整に重要な役割を果たしています(注1)。しかしながら、一度機能を失うと再生せず、人工透析がなければ生命が維持できない状況に陥ってしまいます。人工透析を受ける患者数は増加の一途で、国内で 31 万人に上っており、医療費も年間1兆円と医療経済的問題にもなっています。腎臓移植は唯一の根治療法ですが、慢性的にドナーが不足しており、再生医療への期待が高まっています。しかし腎臓を作ることは極めて困難です。

 糸球体と尿細管は共に、胎児期の腎臓前駆細胞( 糸球体や尿細管などの腎臓の大部分の元になる細胞)に由来します。しかしこの腎臓前駆細胞がどのような過程を経て胎内で形成されるのかはほとんど明らかにされていませんでした。

 今回、腎臓発生分野の太口敦博(博士課程大学院生)、西中村隆一教授らの研究グループは、マウスの腎臓前駆細胞の起源が通説の初期の中間中胚葉ではなく、下半身の元となる体軸幹細胞様の細胞であることを見出し(図1;図2;注2)、実際にマウス胎児から採取したこの細胞から、腎臓前駆細胞を作るのに必要な5種類の成長因子を特定することに成功しました。さらにこの5因子を適切な組み合わせと濃度で5段階に分けて投与することで、マウス ES ( embryonic stem :胚性幹)細胞 およびヒト iPS ( induced pluripotent stem :人工多能性幹)細胞の両方から腎臓前駆細胞を試験管内で作製することができました(図3)。そしてこれらの腎臓前駆細胞をさらに培養することで、糸球体と尿細管の両方を伴った3次元の腎臓組織を試験管内で再構築しました(図4)。

 本研究は、腎臓の元になる細胞が胎内で形成される仕組みを明らかにするとともに、世界で初めて試験管内での3次元腎臓組織の構築を実現したものです。この腎臓組織が機能するためには、さらなる細胞の成熟化と尿を産生・排出する仕組みが必要ですが、本研究はこれまで固く閉ざされていた腎臓の再生医療の扉を開く 大きな一歩と言えます 。またこの方法を元に、腎臓の病気を試験管内で再現できる可能性があり、病因の解明と創薬開発につながることが期待されます。本研究成果は、 Cell Stem Cell 誌オンライン版に先行掲載されました。

注1) 糸球体は、腎臓の機能単位の一部で、血液をろ過するための毛細血管の集合体とその周りを覆う糸球体上皮細胞から構成されるユニット。尿細管は、腎臓の機能単位の一部で、糸球体でろ過された尿の元から、その中に含まれる必要な栄養分や水分を再吸収する管構造。

注2) 中間中胚葉は、マウスの初期の発生過程に存在する、腎臓や生殖器の元となるとされている細胞群。体軸幹細胞は、初期の胎児の尾部に存在し、体の下半身を形作る元となる細胞。

 

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図1.胎児は上半身から先に形作られ、下半身は体軸幹細胞を経て形成される。

 

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図2.腎臓は下半身を形成する「体軸幹細胞」様の細胞を経て形成される。

 

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図3.試験管内での腎臓作製手順。 Wnt, Bmp, アクチビン、レチノイン酸、Fgf9が腎臓前駆細胞を作るのに必要な5種類の成長因子

 

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図4.幹細胞から作製した腎臓組織。
(左上) マウス ES 細胞から 作製 した腎臓組織。
(右上)ヒト iPS 細胞から 作製 した腎臓組織。
(左下)マウス ES 細胞から 作製 した糸球体。
(右下)ヒト iPS 細胞から 作製 した糸球体。