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[発生研セミナー] 3/26 16:00~ 自治医大 仲矢丈雄先生

2019.03.10 ●セミナー

第359回発生研セミナー

 

KLF5による大腸癌発生機構と阻害薬開発困難な癌促進因子に対する
新たな癌分子創薬

 

講師  仲矢 丈雄 博士
自治医科大学 医学部・大学院医学研究科 病理学講座人体病理学部門

 

日 時: 平成31年3月26日(火)16:00~17:00
場 所: 発生医学研究所 1階カンファレンス室

 

 

転写因子KLF5は、iPS細胞・ES細胞の誘導・維持、心血管系の病態制御、臓器連関などに重要である。KLF5は、正常の腸上皮において幹細胞の存在する陰窩底部で強く発現し、ヒト大腸癌で発現が増加する。これらと、腸腫瘍が腸上皮幹細胞を母地に発生することとあわせ、KLF5が腸上皮幹細胞からの腫瘍形成を制御すると予想された。マウス腸上皮幹細胞でWntシグナルを誘導性に活性化すると腸に腫瘍が形成される。しかし、Wntシグナル活性化と同時に同じ幹細胞でKLF5をノックアウトすると、腫瘍形成が完全に抑制された。このように、我々はKLF5が幹細胞からの腸腫瘍形成に必要であることを明らかにした。この結果から、KLF5阻害薬は、大腸癌などの有効な治療薬になると期待される。しかし、KLF5は立体構造が未解明の天然変性蛋白であるため立体構造に基づく阻害薬開発ができない。かつ、核内に存在する転写因子であるため、作用する薬は核内に到達しうる低分子であることが求められる。このため、天然変性蛋白、転写因子に対する阻害薬開発は今まで困難であった。この困難を克服すべく、我々はKLF5のアミノ酸配列からαへリックス構造をとる部位を予想し、その部位の構造の模倣によりKLF5の蛋白間相互作用を阻害すると予想される化合物を開発した。この化合物は、興味深いことにヒト正常細胞を抑制しないが、ヒト大腸癌細胞を選択的に抑制した。この化合物は、ヌードマウスに移植したヒト大腸癌細胞をin vivoで抑制し、投与マウスに副作用を認めなかった。さらに、この化合物は心不全モデルマウスにおいて心機能を改善した。抗癌薬の多くが心毒性を有する中、本化合物は心機能を改善しかつ癌抑制作用を有する化合物として心機能の悪い癌患者の治療薬に発展する可能性がある。この化合物は、ヒト大腸癌細胞ではKLF5蛋白の量を抑制し、ミトコンドリアの膨潤、ネクローシスを起こすのに対し、ヒト正常細胞では同条件の投与でそのような現象を認めなかった。また、この化合物が、実際にKLF5と重要結合蛋白の間の蛋白間相互作用を濃度依存的に抑制することも明らかにした。癌原因因子の解明が進み、患者癌検体のゲノム解析に基づく癌ゲノム医療が本格化しつつある。しかし、癌原因因子のうち、有効な分子標的薬があるのは2-3割以下にすぎず、有効な分子標的薬のない多くの癌原因因子に対する阻害薬の開発が、がん医療の大きな課題となっている。我々の分子創薬法は、今まで阻害薬開発が困難であった多くの癌原因因子、特に立体構造未解明因子、転写因子に対する新しい癌分子創薬を可能にすると期待される。

 

仲矢先生は、平成30年度発生医学研究所共同研究拠点に採択されております。

 

連絡先 生染色体制御分野 石黒 啓一郎 (内線6607)