腫瘍微小環境はがんの増殖や浸潤に重要な役割を果たす。近年、腫瘍微小環境に適応するがんの分子メカニズムが注目され腫瘍微小環境やがん代謝を標的とした新薬の開発が国内外で盛んに行われている。我々は、低酸素・低栄養という粗悪な腫瘍微小環境が、エピジェネティク変化を伴う可逆的ながんの悪性化を促進することを報告してきた。本講演では、がん代謝の視点から、がんの悪性化や治療抵抗性という本態解明を目指した研究の最近の成果を紹介するとともに、低酸素・低栄養・低pHという粗悪な腫瘍微小環境下におけるトランスクリプトーム、エピゲノム、メタボロームといった各種オミクスデータの統合解析の試みや、システムバイオロジーや計算科学を駆使したメタボロームデータ解析技術などの新しい展開を紹介したい。さらに、新たに発見した低栄養や低pHに特異的ながん代謝メカニズムと新規がん治療標的創出の可能性および今後の展望を論じたい。
本研究は、H28年度「発生医学の共同研究拠点」の採択課題です。
【連絡先】発生医学研究所 細胞医学分野 日野 信次朗(内線6801)