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[発生研セミナー] 9月13日16:00~ 東京大学 三嶋雄一郎先生

2016.09.13 ●セミナー

第279回発生研セミナー

 

遺伝暗号によるmRNAの安定性制御機構

 

三嶋 雄一郎 助教
東京大学 分子細胞生物学研究所

 

日時:平成28年9月13日 (火) 16:00~17:00
場所:発生医学研究所 1階カンファレンス室

 

 

mRNAの安定性は遺伝情報の発現量やタイミングを規定する重要な要因であり、様々な機構によって巧妙かつ動的に調節されている。特に近年、microRNA(miRNA)に代表される配列特異的なmRNA 分解機構の研究により、mRNA 安定性制御は真核多細胞生物の生命機能に必須な制御階層であるとの認識が確立されつつある。一方、mRNA の安定性が単純なシス配列では説明できない例も散見され、mRNA の安定性を規定する未知要因の解明が急務となっている。

多くの動物では、卵内に蓄えられた母方ゲノム由来のmRNA(母性mRNA)が、受精後一定時間が経つと急速かつ選択的に分解される。我々は、ゼブラフィッシュをモデルとした網羅的な発現解析により、母性mRNA 分解をmiRNA に依存する経路とmiRNA に依存しない経路に大別することに成功した。さらにmiRNA 非依存的に分解されるmRNA の詳細な解析を進めた結果、これらのmRNA は脱アデニル化酵素であるCCR4-NOT 複合体によってポリA鎖の短縮が促進されるが、その制御は単純なシス配列に依存するのではなく、リボソームによって翻訳されるORF のコドン組成と強い相関があることを見出した。すなわち、分解される母性mRNA のORF はゲノム中で出現頻度が低いコドンが多く含まれており、安定なmRNA では出現頻度が高いコドンが多い組成となっていた。さらに同義コドンを人工的に置換したレポーターmRNAを用いて解析を進め、コドン組成の偏りが翻訳依存的にポリA鎖の短縮効率に影響を及ぼすことを実験的に証明した。

これらの結果は、コドンには「アミノ酸配列を指定する」という古典的な遺伝暗号としての役割に加え、「mRNAの安定性を決める」という隠された役割があることを意味している。セミナーではこの新規mRNA 分解機構のメカニズムと意義について議論したい。

 

 

連絡先 生殖発生分野 中村 輝 (内線6557)