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分  野分子細胞制御分野
掲載日2018年7月2日
タイトル
緑茶カテキンが慢性感染症の原因となる細菌のバイオフィルム形成を効果的に阻害

Ken-ichi Arita-Morioka, Kunitoshi Yamanaka, Yoshimitsu Mizunoe, Yoshihiko Tanaka, Teru Ogura & Shinya Sugimoto

Inhibitory effects of Myricetin derivatives on curli-dependent biofilm formation in Escherichia coli

Scientific Reports 8:8452 (2018)

細菌は固体表面に接着し、それらが産生する細胞外マトリクス(curliや多糖など)に覆われながらバイオフィルムを形成します。バイオフィルム中の細菌は、抗生物質や宿主免疫が効かなくなるため、慢性感染症の原因となります。このようなバイオフィルムに対処するために、より効果的な抗生物質やバイオフィルムの形成メカニズムに基づいた阻害薬開発の戦略が必要です。分子細胞制御分野(小椋光教授)の有田健一(現福岡歯科大学助教)らは、これまでに大腸菌によるcurliの産生とバイオフィルムの形成を抑制する化合物として植物由来のフラボノイドであるMyricetin(バイオフィルムの形成を50%抑制するのに要する濃度IC50=46.2 μM)を見出しています(Arita-Morioka et al., Antimicrob. Agents Chemother., 2015)。Myricetinをリード化合物として、より効果的な類縁体を探索することは、バイオフィルム阻害剤の開発にとって有効なアプローチです。  

今回、有田助教・杉本真也准教授(東京慈恵会医科大学)らは、Myricetin類縁体7種類について大腸菌のバイオフィルム形成抑制効果を検証し、緑茶に多く含まれるカテキンEpigallocatechin gallate(EGCG)がMyricetinより低濃度でバイオフィルム形成を阻害することを見出しました(IC50=5.9 μM)(図A)。EGCGは病原性大腸菌O157:H7のバイオフィルム形成も阻害することが確認されました。透過型電子顕微鏡により細胞外構造体の産生を観察したところ、EGCGは低濃度で大腸菌のcurli産生を抑制しました(図B)。また、curliの産生に関わる遺伝子及びタンパク質の発現に対するEGCGの効果を調べたところ、curliの産生に必須な因子RpoSの転写は変化しないが、ClpXPプロテアーゼによるRpoSの分解が亢進するため、curliの産生に関わる遺伝子の発現が減少することが分かりました。

 以上の結果より、EGCGがバイオフィルム感染症の予防に有効であることが示されました。これらの研究成果は、2018年5月31日、Scientific Reports誌に掲載されました。本研究の一部は、当研究所が推進する「発生医学の共同研究拠点」制度に基づく杉本真也准教授の採択課題として行われました。

 

. Curliの産生及びバイオフィルム形成におけるEGCGの効果。

(A)EGCG(20 μM)の添加により効率的にバイオフィルムの形成量が低下する。

(B)EGCG(20 μM)の添加は、curli(赤矢印)の産生を減少させる。スケールバーは500 nm。