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分  野組織幹細胞分野
掲載日2016年7月11日
タイトル
血液細胞の起源である造血性内皮細胞の分化能力を調節するシグナルの発見

Tanzir Ahmed, Kiyomi Tsuji-Tamura and Minetaro Ogawa (2016)
CXCR4 signaling negatively modulates the bipotential state of hemogenic endothelial cells derived from embryonic stem cells by attenuating the endothelial potential.
Stem Cells 2016: doi: 10.1002/stem.2441

 血液の中を流れる様々な種類の血液細胞は、全て骨髄の造血幹細胞がもとになって産生されています。この造血幹細胞はそもそも骨髄で発生するのではなく、最初は、胎児の大動脈にある造血性内皮細胞から発生することが知られています。造血性内皮細胞は血液細胞に分化する能力を持つ胎児期の血管内皮細胞です。マウス胚性幹(ES)細胞の培養系では、造血性内皮細胞は血管内皮細胞マーカーであるVE-カドヘリンを発現し、1個の細胞から血液細胞と血管内皮細胞の両方のコロニーを形成する能力(二分化能)を持つ細胞として同定されています。造血性内皮細胞の二分化能は造血幹細胞の発生に関わる重要な性質ですが、二分化能がどのようなメカニズムで調節されるのか今まで明らかにされていませんでした。
 今回、組織幹細胞分野(小川峰太郎教授)のTanzir Ahmed(博士課程大学院生)らは、マウスES細胞の培養系において、二分化能を持つ造血性内皮細胞が、VE-カドヘリンに加えてCD41(インテグリンαIIb)とCXCR4を共に発現していることを明らかにしました(図)。CXCR4はケモカインCXCL12の受容体です。造血性内皮細胞の二分化能に対するCXCL12の作用を調べたところ、CXCL12は造血性内皮細胞が血管内皮細胞として分化する能力を抑制することによって二分化能を阻害することを見いだしました。この研究は、CXCL12/CXCR4シグナルが、血管内皮分化プログラムを特異的に抑制して、造血性内皮細胞の細胞運命に影響を与えることを発見したものです。造血性内皮細胞の分化能力を調節するシグナルが明らかにされることによって、近い将来、ES細胞から造血性内皮細胞を経て造血幹細胞を分化誘導する培養系が実現すると期待されます。この研究成果は、Stem Cells誌オンライン版に2016年7月4日に先行掲載されました。

 

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(図の説明)
ES細胞から分化誘導した造血性内皮細胞はVE-カドヘリン、CD41、CXCR4を発現している。造血性内皮細胞は、血管内皮分化プログラムと血液細胞分化プログラムを併せ持ち、1個の細胞から血管内皮細胞コロニーと血液細胞コロニーを形成することができる。CXCL12/CXCR4シグナルは、血管内皮分化プログラムを特異的に抑制して、造血性内皮細胞の細胞運命に影響を与える。