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分  野組織幹細胞分野
掲載日2016年 2月 9日
タイトル
血管内皮細胞の伸長促進の新しいメカニズム

Kiyomi Tsuji-Tamura and Minetaro Ogawa (2016) Inhibition of the PI3K/Akt and mTORC1 signaling pathways promotes the elongation of vascular endothelial cells.
J. Cell Sci. 2016 : doi: 10.1242/jcs.178434 

 既存の血管から新しい血管が出芽するように形成される過程を血管新生と呼びます。閉塞性動脈硬化症のような血管の閉塞を起因とする疾患の治療では、血管新生を促進することによって、障害された血管を再構築しなければなりません。血管新生では、血管を構成している血管内皮細胞の伸長作用が重要な役割を担っています。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管内皮細胞の伸長を促進して血管新生を誘導するため、治療への応用が試みられています。しかし、VEGFによる過度の刺激は血管透過性を亢進し浮腫を引き起こすなどの副作用があるため、低濃度のVEGFでも血管新生を促進できる治療法の開発が望まれています。

 組織幹細胞分野の田村潔美助教と小川峰太郎教授は、マウスES細胞から分化誘導した血管内皮細胞を用いて標準阻害剤ライブラリーのスクリーニングを行い、PI3K/AktシグナルとmTORC1シグナルの阻害剤が、低濃度のVEGFしかなくても血管内皮細胞の伸長を促進することを発見しました。血管内皮細胞の伸長促進には、高濃度のVEGFに依存するメカニズムの他に2つの新しいメカニズムがあることを明らかにしました。1つは、Foxo1依存的でPI3K/Aktシグナルにより抑制されるメカニズムで、もう1つは、mTORC2依存的でmTORC1シグナルにより抑制されるメカニズムです。この血管内皮細胞伸長促進の新しいメカニズムの発見は、高濃度のVEGFに頼らずに血管新生を促進できる新しい治療法の開発につながることが期待されます。この研究成果は、Journal of Cell Science 誌オンライン版に2016年1月29日に先行掲載されました。

 

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図:血管内皮細胞の伸長促進の新しいメカニズム

血管内皮細胞の伸長を促進し血管新生を誘導するには高濃度のVEGFが必要である。

ところが、PI3K/AktシグナルもしくはmTORC1シグナルを抑制すると、低濃度のVEGFでも血管内皮細胞が伸長することが明らかになった。