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分  野腎臓発生分野 (旧 細胞識別分野)
掲載日2009年 4月 14日
タイトル
Sall4 は分化誘導遺伝子の転写を抑制して ES 細胞を安定化する

Shunsuke Yuri, Sayoko Fujimura, Keisuke Nimura, Naoki Takeda, Yayoi Toyooka, Yu-ichi Fujimura Hiroyuki Aburatani, Kiyoe Ura, Haruhiko Koseki, Hitoshi Niwa, and Ryuichi Nishinakamura. Stem Cells (2009) 27(4):796-805 .

  近年 iPS (induced Pluripotent Stem) 細胞が樹立されたことにより、幹細胞への注目が高まっている。核内因子 Sall4 は ES 細胞や iPS 細胞で発現しており、その機能解明は世界的競争になっている。腎臓発生分野(西中村隆一教授)の榊真代(現 UCSF ポスドク)らは、 Sall4 が ES 細胞の増殖に必須であることを以前に報告した (Sakaki-Yumoto et al. Development, 2006) 。今回、大学院博士課程の由利俊佑( VA Greater Los Angeles Healthcare System Home at Sepulveda 留学予定)らは、 ES 細胞における Sall4 の新たな機能を解明した。フィーダー細胞*1がない状態で培養された Sall4 欠失 ES 細胞は、本来栄養外胚葉*2でしか検出されない Cdx2 を発現していた。これは、 Sall4 が Mi2/NuRD といわれるヒストン脱アセチル化酵素複合体と結合して、 Cdx2 プロモーター領域の転写を抑制するためであることを明らかにした。しかし、 Sall4 欠失 ES 細胞は、 Cdx2 の異常発現にもかかわらず栄養外胚葉(胎盤)へ分化するわけではなく、 ES 細胞としての多能性を保持していた。つまり、 Sall4 は ES 細胞の多能性を生み出す本体ではないが、 Cdx2 など本来発現すべきでない分化誘導遺伝子の転写を抑制することで、 ES 細胞の安定性を維持していることになる ( 図 ) 。本研究成果は Stem Cells 誌1月号に掲載された。

 

*1:目的の細胞の培養条件を整えるために補助的に用いる他の細胞種。
*2:胚盤胞において外側に位置し、将来胎盤になる細胞。

 

np30

図 Sall4 は Mi2, HDAC, MBD3 などから構成される Mi2/NuRD 複合体と結合することで、 Cdx2 の発現を抑制している。