国際先端研究拠点
国立大学法人熊本大学 国際先端研究拠点
学術集会参加報告 2016年度

 

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ISSCR 2016 Annual Meeting 参加報告

 

June 22-25, 2016 San Francisco (U.S.A.)
腎臓発生分野
太口 敦博

 

2016年6月22日から25日に行われた国際幹細胞学会年会に参加し、ポスター発表を行ったので報告をさせていただく。
今年度の学会を通じて感じた印象は、幹細胞研究の領域においても、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析、タンパク質定量などがより普遍化してきたこと、さらには従来のprotein coding geneのノックアウトによるゲノムレベル・タンパクレベルの分子細胞生物学的解析に加えて、micro RNA、long non-coding RNA、circular RNA、エンハンサー解析なども含めたエピゲノム解析が注目されてきていること、さらに領域によってはこれらの技術を臨床治療にまで進展させたトランスレーショナルリサーチが多く見られたことが挙げられる。これらの技術の進歩は、個々の細胞の特性をより定量的かつ詳細に明らかにするため、たとえば従来実験的にその分化能によって分類されてきた血液幹細胞の細胞分化系統モデルが見直されるなど、これまで教科書的に正しいとされてきた内容が書き換わる様な知見も散見された。また、これらの解析法の進歩はイメージング技術の進化とも表裏一体をなしており、単一細胞レベルはもとより、細胞内における一つ一つの転写因子の挙動を4次元で視覚化した発表など非常にインパクトの高い内容も見受けられた。
会期を通じたキーワードの一つとして、細胞の「可塑性(plasticity)」がより多角的に捉えられ、議論されているように思われた。すなわち、いわゆる本来定常状態にある最終分化した細胞から多能性幹細胞への可塑性(山中らによるiPS化)から、ダイレクトリプログラミングと呼ばれるような分化細胞から別系譜の分化細胞へのリプログラミング、さらには組織幹細胞のような特定の前駆細胞の多能性の維持や細胞老化に関わるメカニズムまで、幅広く細胞の形質の維持や変化というものを動的なスペクトラムでとらえようとするものである。このことは本来マクロな視点で個体発生からその恒常性の破綻状態としての疾患や癌、機能の老化といったものをとらえてきた事象が単一細胞レベル、分子レベルで語れるようになったことで、個々の細胞の形質として評価・解析できるようになってきたことの表れとも言えるだろう。

このような単一細胞レベルにフォーカスしていく方向性とは対照的に、分化誘導系(directed differentiation)やオルガノイド研究の領域では、ある程度大まかなパターニングシグナルを外から与えることで、組織の集団としての発生の場を与え、細胞間の相互作用に依存して組織を発生させようとする流れの一端が、見受けられ興味深い。
今回の国際幹細胞学会は基礎的な研究からより応用的な研究までますます幹細胞を基軸としたこの研究領域の裾野が広がっていることを印象付けるもので今後の展開の多様な可能性を示唆するものであった。

最後に、学会発表に際して旅費支援をいただき、このような貴重な機会を与えていただいた国際先端研究拠点プログラムに深く感謝の意を表し締めくくらせていただく。