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分  野細胞医学分野
掲載日2015年7月28日
タイトル
網膜芽細胞腫(RB)タンパク質は、がん遺伝子誘導性老化細胞において、解糖系遺伝子の活性化により酸化的リン酸化を促進する

Shin-ichiro Takebayashi, Hiroshi Tanaka, Shinjiro Hino, Yuko Nakatsu, Tomoka Igata, Akihisa Sakamoto, Masashi Narita, and Mitsuyoshi Nakao. Retinoblastoma protein promotes oxidative phosphorylation through up-regulation of glycolytic genes in oncogene-induced senescent cells.Aging Cell 14, 689-697 (2015).

 細胞老化(cellular senescence)は、細胞周期関連遺伝子の発現調節を介して増殖を停止させる、細胞の抗がん作用のひとつと考えられています。最近の研究で、がん遺伝子の活性化により誘導される細胞老化は、細胞内エネルギー代謝にも大きな変化をおこしていることが分かってきました。具体的には、細胞のエネルギー工場ともよばれるミトコンドリアにおいて酸素呼吸(酸化的リン酸化)が非常に活発になっていることが分かってきました。このミトコンドリア呼吸の活性化は、老化細胞を維持するために重要なはたらきをしていると考えられていますが、この現象がどのようにおこっているのかその詳しいメカニズムは分かっていませんでした。

 今回、細胞医学分野(中尾光善教授)の竹林慎一郎博士(現 三重大学大学院医学系研究科•講師)らは、培養ヒト線維芽細胞をモデルとして用い、網膜芽細胞腫の原因遺伝子として知られるRBが細胞老化にともなうエネルギー代謝変化を調節していることを明らかにしました。竹林博士らは、まず細胞の代謝活性をリアルタイムに測定できるフラックス解析装置を用い、老化細胞におけるミトコンドリア呼吸の活性化がRB依存的におこっていることを見出しました。さらに、網羅的な遺伝子発現および代謝産物解析により、RBタンパク質が解糖系を中心とする複数の代謝関連遺伝子の発現レベルを上昇させることでエネルギー源供給を亢進させ、下流のミトコンドリア呼吸を活性化していることを明らかにしました(図)。

 近年、代謝リモデリングは、がんなどの疾患細胞だけでなく、分化や発生過程にある細胞でもおこっていることが明らかになりつつあります。しかしながら、代謝リモデリングを誘導するメカニズム、代謝リモデリングの結果どのような細胞機能が影響をうけるのかといった問題は、研究の端緒についたにすぎません。

本研究の意義は、がん化を抑制する因子として長年研究されてきたRBタンパク質に着目し、その下流の未知の代謝制御機構を明らかにした点です。本研究の成果は、2015年8月Aging Cell 誌14巻4号に掲載されました。

 

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図 RBタンパク質による老化細胞ミトコンドリア呼吸の活性化

 

がん遺伝子の活性化により細胞老化が誘導されると、RBタンパク質が解糖系などの代謝関連遺伝子の発現レベルを上昇させる。これにより解糖系における代謝や下流のミトコンドリア呼吸が活発になる。